グリーンランド奪取、トランプ米大統領は本気だーー「力が正義となる世界」においてはデンマークが切れるカードはほとんどない
グリーンランドの陸地面積はテキサス州の3倍あり、地下には採掘は難しいものの、レアアース(希土類)をはじめとする鉱物が大量に存在すると考えられている。
さらに、この広大な島の領海下には石油・ガスがあるほか、デンマークが国連の大陸棚限界委員会(CLCS)に申請した北極点を含む領有を主張する域内にもさらに資源がある。この申請内容は、カナダやノルウェー、ロシア、米国による主張と程度の差はあれ対立している。
古い秩序の断末魔
グリーンランドに対し米国が行動を起こすとすれば、11月の中間選挙より前と考えていい。そのやり方については、トランプ氏自身もまだ決めていないだろう。マドゥロ氏を拘束するための特殊部隊投入も、最初の選択肢ではなかった(当初は交渉による退陣を試みていた)。
プーチン氏がほとんど発砲することなくクリミアを奪取した際に用いたのは武力や資金、政治的圧力、偽情報を組み合わせたハイブリッドな手法だ。グリーンランドを巡り、トランプ氏はこうしたやり方を参考にする可能性がある。
ホワイトハウスは、グリーンランドの住民に一人当たり最大100万ドル(約1億5700万円)を支払い、まず独立に投票させ、その後、米国に加わらせることもできる。その費用は米国務省の年間予算とほぼ同程度だ。しかし、そこまでの出費は不要かもしれない。
デンマークには、軍事的にも経済的にも米国と競う手段はない。フレデリクセン氏もそれを理解している。他の欧州諸国同様、通商やウクライナ支援、さらには自国の安全保障全般を巡り米国からの報復にさらされやすく、ワシントンとの正面衝突は割に合わない。
より明確になりつつあるのは、欧州が依然として米国が主導する古い世界秩序に依存しているが故に脆弱(ぜいじゃく)だという事実だ。世界の他の多くの地域は、そうではない。不均衡な通商取引やウクライナを巡る駆け引き、そして今回のグリーンランド奪取の脅しは、それを証明するテストケースに過ぎない。
同時に、代替となる新たな世界の「秩序」はまだ存在せず、あるのは旧秩序の凄惨(せいさん)な断末魔だけだ。われわれは19世紀型の大国間競争に何らかの形で逆戻りしつつあるように見えるが、ナポレオン戦争後のウィーン体制のような競争や戦争を抑止する仕組みはまだない。
新たな体制に向かうとしても、疑問は無数にある。例えば、欧州のどの範囲がロシアの支配圏に入るべきなのか。太平洋やヒマラヤでは、中国の勢力圏はどこで終わり、米国やインドの勢力圏はどこから始まるのか。
重要な半導体産業を抱える台湾はどうなるのか。1990年代に米国と欧州が、セルビアによる武力と民族浄化を通じた国境変更を阻止した西バルカンでは、どのような余波が生じるのか。ルールに基づく国際秩序の典型である欧州連合(EU)は再軍備を進め、生き残るのに十分な結束を維持できるのか。
これらの疑問はいずれも、現時点では完全には答えられない。ウクライナ戦争は継続中であり、トランプ氏が米国の裏庭と見なす中南米で「ドンロー主義」、つまり21世紀版のモンロー主義を押し付けようとするのも、まだ新たな国際秩序ができていないからだ。全ては現実が突き付けている問いかけだ。
(マーク・チャンピオン氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。以前はウォールストリート・ジャーナルのイスタンブール支局長を務めていました。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
著者:Marc Champion
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