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高市首相の「台湾有事」答弁をめぐり雑な議論が広がる理由。制度の位置づけ、日中関係、台湾認識、別々に議論すべき3つの課題

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中国政府からすれば、「日本の首相が戦後初めて対外的な武力行使を示唆し、台湾問題への武力介入を公言した」というフレーミングで、「日本の軍国主義復活」というナラティブを浸透させる格好の機会となった。中国による全面的な台湾侵攻がまだそう簡単に起こる状況にはないことをふまえれば、このタイミングで「台湾有事=集団的自衛権行使=日本の武力行使」と受け取られかねない発言を行った政治判断には、大きな疑問符が付く。その意味で、高市答弁は失言だったという評価は免れない。

ただし、中国の「撤回」要求にそのまま応じることも難しい。発言の撤回は、中国が台湾に対して武力による一方的な現状変更を試みた際、「日本は一切かかわらない」というメッセージを国内外に発することとほぼ同義だからである。日本政府は、近年では2021年の米中首脳会談(菅・バイデン会談)以降、明確に「台湾海峡の平和と安定の重要性」および「台湾問題の平和的解決」を強調してきた。

高市答弁も、「集団的自衛権の一般的行使を認めるものではなく、他国防衛そのものを目的とする行使は認められない」という従来の政府見解を確認しつつ、「いかなる事態が存立危機事態に該当するかは個別具体的な状況に即して総合判断する」と述べており、あくまでこのラインに沿っている。本人が「具体的事例を挙げた点は反省している」と述べている以上、さらに「撤回」まで行えば、別種の政治的メッセージを中国側に送ることになってしまう。

質問した岡田議員も高市首相と大きく違わない

そもそも今回の「事故」は、岡田克也議員との「攻防」の中で生じたものである。岡田氏の質問の趣旨は、抽象的に語られがちな「存立危機事態」について、政府答弁を通じて成立要件を具体化し、その適用範囲を限定する方向で明確化することにあった。

岡田氏自身が「台湾有事と存立危機事態の関係を絶対に否定するつもりはない」としつつ、「海上封鎖」や「米軍への武力攻撃」などの事態を前提に、どこまでが存立危機事態に当たり得るのかを繰り返し質した結果、高市首相が一定の具体性をもって答弁してしまった。これにより、中国が台湾に対して武力行使に踏み切った場合、事態の枠組みの中で日本が「場合によっては対応し得る」ことが正面から可視化されたのである。

もっとも、国会答弁を見る限り、岡田議員も高市首相も、「台湾有事」の際に米軍が武力攻撃を受け、それが日本の安全に重大な影響を及ぼす事態が生じた場合に「存立危機事態」となり得る可能性を否定していないという点で大きく異ならない。違いは、岡田氏がその範囲を明確に具体化しようとし、高市首相が曖昧さを維持しようとした点にある。

ここで、いわゆる「曖昧戦略」について触れておく必要がある。曖昧戦略とは、台湾有事における米軍介入の可能性に「含み」を持たせることで、二重の抑止効果を狙う手法である。

次ページ「曖昧戦略」の狙いは中台双方への抑止
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