過去にユーロを導入した中東欧の国々もまた、確かに便乗値上げを経験している。直観的な議論になるが、ブルガリアの場合、1ユーロ=1.955583レヴァという固定レートだから、ユーロを導入した場合、2レフのモノがおおむね1ユーロとなる。このタイミングで2レフのモノに1.1ユーロと値付けをし、便乗値上げする小売業者が出てくる。
ユーロ導入で先行した国で便乗値上げは起きたか?
統計的に、この便乗値上げの動きを確認したい。ブルガリアに先んじてユーロを導入したバルト三国(エストニアが2011年、ラトビアが2014年、リトアニアが2015年)とクロアチア(2023年)の4カ国について、ユーロ導入月から1年間の消費者物価指数(CPI)の動きを追ってみたい。なお、ここではユーロ圏平均のCPIとの相対比でみることにする。

相対比とした理由は、ユーロ圏における大局的な物価のトレンドの影響を除くためである。つまりこの指標が100を超えて上昇すればするほど、その国の物価はユーロ圏全体よりも強く上昇しているため、便乗値上げが強く生じた可能性がある。対して、100近傍であれば、便乗値上げはそれほど行われなかったと評価することができよう。
一見すると、エストニアとクロアチアでは便乗値上げが生じたが、ラトビアとリトアニアでは便乗値上げは極めて限定的だったという評価になる。これは、いささか逆説的だが、便乗値上げがユーロ圏全体の物価動向に影響を受ける可能性を示唆している。つまりラトビアとリトアニアがユーロを導入したのはそれぞれ2014年と2015年であり、この時期のユーロ圏はデフレ状態にあった。
そのため、ラトビアとリトアニアでは便乗値上げが起こりにくかった。一方で、エストニアとクロアチアがユーロを導入した2011年と2023年はインフレ状態にあり、とりわけクロアチアの導入時期は、ロシア発のエネルギーショックの翌年となるため、強いインフレ圧力がユーロ圏を襲っていた。そのため、便乗値上げ圧力も強まったのだろう。
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