国際貿易裁判所判決は3人の判事が一致、うち2人は共和党系。法の解釈が争点の場合、党派性が薄まる傾向で大統領に不利
また同判決は、過去100年間、議会は戦時を除いて非常事態宣言や貿易障壁の導入に関して行政府の広範な権限を制限してきたとし、「トランプ大統領の国際緊急経済権限法の適用は権限を越えた」ものであるため、トランプ関税を無効と判断している。要するにトランプ大統領が議会を無視して非常事態宣言を出すのは不適切で、宣言を理由とする国際経済緊急権限法の適用も権限に見合っていないということだ。
判決文は結論として、「国際緊急経済権限法はトランプ関税のいかなる部分にも権限を付与していない。関税という手段で輸入を規制することは国際緊急経済権限法が付与する権限を逸脱している」「問題となっている関税は無効であり、その運用を永続的に禁止する」としている。トランプ政権の完全な敗北である。
飼い犬に手をかまれたトランプ大統領
実はこの裁判の前にもう一つ、同じ原告(民間企業のみ)が提訴し、国際貿易裁判所で争われた裁判があった。判決は4月24日に出ていて、その内容は以下の通り。
② 大統領は明確な緊急事態を示していない
③ 貿易赤字の存在は緊急事態ではない
④ 仮に議会が権限を付与したとしても、それは憲法違反の譲渡である
⑤ 4月2日の大統領令の執行を禁止する
今回の判決と大きな違いはない。ただ、この判決が審理方法を規定する裁判の判決であったのに対し、今回は新たな関税の無効を判示したため、影響力がまるで違う。
『The New York Times』は「国際貿易裁判所の判決はトランプ政権の大きな後退を意味し、アメリカの利益になるように貿易取引をしようと他国に圧力をかける主要な交渉力を削ぐことになるだろう」と報じている(5月28日「Trump Tariffs Ruled Illegal by Federal Judicial Panel」)。
さらにトランプ政権にとって痛手なのは、3名の判事が全員一致で判決を下していて、1人はトランプ大統領が第1期に指名し、もう1人はレーガン大統領が指名した、いわば共和党系の判事だったことだ(もう1人はオバマ大統領が指名)。トランプ大統領としては飼い犬に手をかまれた気分だろう。
トランプ大統領は自分の考えに近い人間を連邦判事に多く指名しているため、司法に対して強い影響力があるように見える。だが、アメリカでは判事の独立性が高く、今回のように法解釈が主体となる裁判では、党派性を超えた判決が出る傾向がある。たとえばトランプ第1期政権で、政権発足直後にイスラム教国からの入国を制限する大統領令が出されたが、いくつかの連邦地裁で差し止め命令が出て、なし崩し的に無効になっている。第2期政権でも、目玉政策である生誕地市民権を否定する大統領令を違法とする判決が出ている。
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