「談合の温床・大規模修繕は時代遅れ?」、無駄な工事で修繕積立金が枯渇、《マンション管理の新発想》資産を守る「中規模修繕」メリットと課題

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それに必ずしも中規模修繕で総工事費用が安くなるわけではないと菅さん。

「工事を分散することで工事費は明朗化しますが総額1億円が1億2000万円になることはありえます。まとめてやるほうが総額は減らせる可能性が高いのです」

それでもそれ以上にメリットは大きいと菅さん、佐々木さんはともに声をそろえる。

収支バランスがよくなる上に、災害の多い今の時代に大規模修繕で修繕積立金を使い果たしてしまうリスクが軽減できる、少しずつでもバリューアップしている物件なら空き家にもなりにくいなどのメリットが大きいからだ。

佐々木龍郎さんと菅純一郎さん
佐々木龍郎さん(左)と菅純一郎さん(写真:筆者撮影)

もうひとつ、佐々木さんは工事の精度も指摘する。

「今、現場では全体を見て監督する人たちが40~50代の氷河期世代にあたり、人手が足りていないだけでなく、全体が見えていない人が多い。

そのような状況なので、一度に多くの仕事を依頼するよりも足場だけ、窓だけ、設備だけと仕事を分割、場合によっては地元の工務店に依頼するなどとしたほうがいい結果になる可能性もあります」

中規模修繕実現のための障壁は意識と知識

ただ、どこの管理組合でも中規模修繕ができるかといえばそこにも問題がある。ひとつは意識の問題だ。

「東日本大震災後、危機感から耐震改修をリードした所有者がおり、その人の活動から管理会社に丸投げにして終わりではなく、自分たちで考えようという機運が生まれ始めました。

2016年に共用部の電源一括受電を全員賛成で採択、それによって年間かなりの管理費を節約できた成功体験もあり、自分たちでもできるんだと思うようになったところで私が中規模修繕を提案。やってみようかという気になったのだと思います」と佐々木さん。

マンションの管理では考える、判断するのは所有者であり、管理組合である。管理組合が主体となって管理会社を巻き込み、一緒にベストな道を探る。そんな取り組みができれば修繕のあり方を見直せるのではないかというのだ。

もうひとつ、大事なのは管理組合、管理会社に足りていない知識をどう補うか。建築や設備に詳しい所有者がいればその人が核になって行動できるだろうが、そういう人がいない場合にはどうすればいいか。

菅さんは顧問として専門家と契約すればよいという。

「大規模修繕で設計監理に多額をかけるのをやめて、その費用で常に自分たちの味方になって中立的な立場でアドバイスをしてくれる顧問を雇えばいいのです。できれば資産面でのアドバイザーと建物、設備がわかる人の2人がいれば盤石でしょう」

佐々木さんは今後、マンションに限らず、建物の維持管理に関わるアドバイスができる中立的な組織が必要ではないかと考えている。

「これまでは建築を発注する側も、受注する建築家なども作ることしか考えておらず、それをどう運用、維持するかを疎かにしてきた。でも、新築が作りにくくなるこれからを考えると営繕は非常に重要。

個人でやるとバックマージンを疑われる場面もありうるので組織にして中立、公平な立場でアドバイスできるようにしていくことが大事だと考えています」

長らく、誰もが大規模修繕一択でそれ以外はないと思い込んできたが、発想を変えることでできること、カバーできるマイナスもあるはずだ。

筆者注:改修、改良、修繕などいくつか同種の多少意味の違う単語があるが、ここではわかりやすさを優先、修繕に統一してある

中川 寛子 東京情報堂代表

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なかがわ ひろこ / Hiroko Nakagawa

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街の住み心地をテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に『「この街」に住んではいけない!』(マガジンハウス)、『解決!空き家問題』(ちくま新書)など。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会各会員。

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