ところで、そもそもなぜ宇都宮さんは就職先としてパナソニックを選んだのだろうか。
「学生時代から松下幸之助の『道をひらく』などを読み、その思想に親しんでいたんです。松下幸之助が好きでパナソニックに入ったんですよ」

その松下の考え方は仕事にも化石採集にも生きている、という。
「『進歩発達は自然の摂理に順応同化するにあらざれば得難し』という松下の言葉があります。進歩や発達は自然の摂理に適応し、それと一体化することで初めて実現できる、という意味ですね。人間の行動も化石の堆積構造も、自然という原理原則を見極めることが大事で、そうすればあるべき姿が見えてくる。仕事があるから趣味が磨かれるし、その逆もまたしかり。相通ずるところがあるんです」
頭脳と経験の戦いだから「今が最強」
宇都宮さんがいま力を入れているのが、大阪府貝塚市での調査だ。関西を代表するアマチュアの化石ハンター・佐藤政裕さんが1990年代初頭に発見した大型海生爬虫類・モササウルス類の頭骨を含む岩塊が、2024年3月に宇都宮さんに託された。
宇都宮さんがクリーニングしたところ、歯根部分の横断面が直径4cm近くにもなる巨大な歯が出現。当時の発掘現場が手つかずで残っていることから、地権者と協力して重機を入れた大規模発掘調査を始めている。モササウルス類の全身化石が眠っている可能性もあり、今後の調査結果が待たれる。
「自分のところに回ってきた化石はちゃんと『成仏』させないといけない。それが次の発見につながっていきます」

宇都宮さんは今55歳。仕事人生は先が見えてくる時期だが、趣味とは今後どう付き合っていこうと考えているのか、尋ねてみた。
「若いときにピークを迎えるスポーツとは違い、化石採集は頭脳と経験の戦いです。年齢を重ねるほど経験値がたまり、知識が増えてくる。続けていればずっと上り調子になる。だから、『今が最強』という状況になるんです。
国内外から共同研究のお声がかかっているのでそれにも応えたいですし、これまでやってきた研究をもう一段階掘り下げたり、本として形にしたりしていきたい。もっと大きなことができるような気がしています」
「今が最強」と語る化石ハンターは、これからも私たちをあっと驚かせるに違いない。

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