しかし、遊び心はあっても時間的な制約は大きいのが、サラリーマン化石ハンターである。
宇都宮さんが採集に行けるのは年間10〜20日ほど。それ以外は家族との時間のほか、化石のクリーニング、研究、執筆に充てられる。クリーニングとは、採集した化石の周りの余分な岩を削り取る作業だ。研究者によっては専門の技官にクリーニングを任せる人もいるが、宇都宮さんはフィールドでの採集からクリーニングまでを自らの手で行っている。

「フィールドでは、目当ての化石のほかにもさまざまな動物や植物の化石が出てきます。それによって当時の生態系やエサを推測できますから、『この生物を追いかけていけば、恐竜が見つかるかもしれない』という仮説を立てて次の採集に生かすことができます。
クビナガリュウ化石を岩から取り出すクリーニングの過程ではペリット(食べた生物の骨などをまとめて吐き出した塊)を見つけたこともありました。手間も時間もかかる作業ですが、人まかせにせず自分でやるから、重要な痕跡を見逃すこともありません」
採集歴44年、さまざまな人との縁も
宇都宮さんの採集歴は44年にもなる。その間には「もう続けられない」と思ったタイミングもあったのではないか。
「一度もないですね。結婚してからも家内は快く送り出してくれますし、一緒に化石採集に行って、帰りに温泉に入って帰ってくることもあるんですよ。
海外に採集に行けば現地までの交通費や化石の運搬費用が高額になりますが、私が行くのは近場だし、道具もハンマーやタガネぐらい。現地までのガソリン代と温泉代があったら十分楽しめるし、アップダウンのある場所を歩くから健康にもいい。いいことずくめです」
化石採集をしていていちばんよかったことは、恐竜の研究者をはじめ、普段なかなか出会えないような人とつながれることだという。
「恐竜好きはあらゆるところにいます。こちらは知らなくても、向こうは私の名前を知っていてコンタクトがあるんです。おかげさまで、ミュージシャンや政治家など、いろいろな方とつながることができました。化石採集に連れていってくれ、と言われることもありますよ。社会的地位は向こうが上かもしれないけれど、趣味の世界では私が師匠。『釣りバカ日誌』のハマちゃんとスーさんみたいなものですね」


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