3回の「初代大統領」を務めたモンゴル人政治家 モンゴルの移行期を背負ったオチルバト大統領の軌跡
そして3回目は、1993年6月の大統領選挙の結果、「直接選挙による最初の大統領」となった。以来、今日まで直接選挙によって大統領が選ばれており、一般に言うところの初代大統領とはこの3つ目を指している。さまつに思われるかもしれないこうした事実こそ、彼がまさに「移行期」を生き抜いた政治家であることを表している。「移行期」を背負うことになった歴史的タイミングをさして、自伝のタイトルは『天の時』になるのである。
私は彼から、生まれ故郷を出て社会主義時代に鉱業部門で活躍し、モンゴル国初代大統領になるまで、すなわち1942年から1993年までの半世紀についてインタビューすることができた。彼の人生をたどれば、20世紀後半のモンゴルという国の生き様もわかるに違いない。
以下、当時のインタビューに基づいて彼の言葉を紹介し、追悼文としたい。なお、敬意を十分に込めながらも敬語を略した平叙文でつづることをお許しいただきたい。
故郷を出て母と2人でウランバートルへ
オチルバト氏は1942年、モンゴル国西部のザブハン県トゥデブテイ郡ボンハントというところで生まれた。彼の父は高僧で、還俗して結婚した。
彼が5歳のときに父が亡くなったため、母と2人で首都ウランバートルに移住した。幼かった2人の弟はそれぞれ親戚に養子に出された。父は亡くなるとき、「息子を学のある人間にしておくれ!」と頼んだそうだ。新しい時代の新しい学問を身につけるには首都に行くしかない。
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