世界で最も劣悪な「台湾マグロ漁船労働」の実態 日本の食卓を飾る水産物の知られざる人権問題

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──ほかにどんな実例がありますか。

2024年8月、別の漁船に乗っていた10人の船員は、15カ月にわたって給料を受け取れず、無給のまま働かされました。船員は月550米ドルの賃金を約束されていましたが、1年以上漁を続けても1ドルも受け取っていませんでした。それどころか賃金を受け取る前に再び海に出て働かなければならないと言われました。彼らの家族は生活のために借金をせざるをえなくなり、ある船員の家族は自宅を売ることになりました。

こうした問題を解決するために私たちは労働者の組織化を進めています。先ほどの10人の労働者は上陸してFOSPIに相談し、交渉の末に最終的に支払いがなされました。

Wi-Fiにアクセスする権利を求めるインドネシア人の漁業労働者(提供:Shih Yi hsiang (施逸翔))

アルサガ FOSPIとともに私たちが通信手段であるWi-Fiにアクセスする権利を求めているのは、悲劇が起きるまで問題が改善されない状況を何とかしたいからです。通信手段があれば、賃金が銀行口座に振り込まれておらず、不払いとなっていることに家族がすぐ気付くことができます。食べ物が底を突きかけたときに、Wi-Fiがあれば、SOSを発することもできます。しかしこの業界では、コスト削減が優先され、労働者にとって必要なコミュニケーションの権利が保障されていません。

世界で最も搾取されている労働者

──漁船に乗る前にどのような契約が雇用主との間で結ばれているのでしょうか。

ハディ 契約書には1カ月の給料がいくらであるとか、いろいろなことが書かれていますが、労働者は契約書を読む暇もないままサインさせられています。また、契約内容も不平等で、2年間の契約であるのに、突然帰国を命じられたりしています。また、賃金からさまざまな名目で費用が差し引かれる仕組みになっています。

アルサガ 多くの遠洋漁業の労働者は契約書を、飛行機に乗る直前に渡されています。その時点で労働者は平均で2カ月分の費用をブローカーに払っているうえ、実際に船に乗ったら労働条件が説明と異なっていたということもしばしばあります。

ヴァレリー・アルサガ/グローバル・レイバー・ジャスティス・デピュティー・ディレクター。労働者と移民の権利獲得に取り組む活動家で、不動産、介護、輸送、ヘルスケア、小売り、ITなどさまざまな分野で20年以上の労働者組織化の経験を持つ(撮影:梅谷秀司)

私たちはWi-Fiの権利を求めるとともに、台湾農業部漁業署の管轄下にある遠洋漁業の労働者を、沿岸漁業で働く労働者と同様に、労働部の管轄下に置いて保護してほしいと求めています。しかし、Wi-Fiの権利を求める活動は2年間続けていますが、行政当局は重い腰を上げようとしません。

この遠洋漁船の労働者は、私が人生の中で接してきたあらゆる労働者の中で最も搾取されている人たちだといえます。全世界でも2%しか労働組合によって組織化されていません。2022年に発表された調査リポートによれば、年間に10万人以上が遠洋漁業で死亡しています。これは控えめに見た数字だと言えます。

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