「週3日働き年収2000万」オジサンのニッチな仕事 「元手ゼロ」で楽なビジネスを軌道に乗せたワケ

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そう考えたとき、オジサンの「大通りに面した大きなビルの看板広告はそれ相応の広告費ですし、そこに広告出せる企業に繋げるのは、それなりの規模の広告代理店になりますよ。

でも、よく見ると小さいビルで看板広告出せるところはまだまだたくさんありますし、そういうところは広告費が安すぎて大手は手を出さない」という発言は、「ニッチ探し」をする際にすごく重要な示唆を与えてくれます。

「ニッチ」は「差別化」ではない

オジサンがやっていることは、普通の看板広告ビジネスであり、それ以上でもそれ以下でもありません。ただ違うことは、大企業にとっては収益面で「旨味が少ない=家賃が安い」場所を狙って広告を出しているだけです。

大企業が手を出す意味のない「ニッチ」ですが、オジサンが自分と家族が生活するには十分に旨味のある仕事が、飲み屋街の中にはたくさんあったわけです。

そう考えると、起業を目指して具体的に事業計画の作成に取り掛かった際に、必ず頭を悩ませる「ニッチ」という言葉には、全く別の側面があったことに気づくはずです。

私たちは、「ニッチ」を取るために、既存の大企業とは異なる新しい価値を提供しなければならないという、変な思い込みに囚われてしまっているのではないでしょうか?

本来ニッチ(niche)というのは、隙間という意味です。市場の中で自分が生きていくための隙間を探すのと、他の企業との競争に打ち勝つための価値を求めることは、根本的に次元が違う話です。

私たちはいつのまにか、「ニッチ」という言葉に「差別化」を混在させてしまったことで、「大企業にも打ち勝てるベンチャー企業をどう作るのか?」と頭を悩ませてしまい、本当はシンプルに「そこそこ起業」できる機会を逃してしまっているのではないでしょうか?

大きな売上が見込めるところは、大企業に食わせれば良い。大企業が食べ残したところを、自分が生活するための場所にすればいい。

そうすれば、ビジネスモデル的には既存企業の模倣であっても、生活するには十分な収入が得られるビジネスは簡単に作れてしまう。

オジサンがいい感じで酔っ払った頃を見計らって、「ビジネスのタネ明かしをして、競争相手が増えたらどうするのですか?」と尋ねてみました。

すると答えは、

「ビルはまだまだたくさんあるし、今の状態を維持するだけなら、私が死ぬまではどうにでもなりますよ」

確かに、目の前に広がるビル群の広がりを見れば、一人や二人、競争相手が増えても特に問題ないでしょう。

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「兄さんがこの世界に入ってきたら、ちょっと怖いかな。少し話しただけで、ここまで見えちゃう人はなかなかいないよ」

半ばサービストークだったと思いますが、オジサンは満足そうにそう言うと、私の分までお金を払って店から出ていきました。ひょっとしたら、自分と同じ目線で街を見ている人を探して、オジサンは飲み歩いているのかもしれません。

「成長」という枷を外してしまえば、市場をハッキングして、そこそこ稼げる仕事を作るのは簡単だぞ。

この夜、オジサンが私に伝えてくれたのは、そういうことだと思います。

高橋 勅徳 東京都立大学大学院経営学研究科准教授

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たかはしみさのり / Misanori Takahashi

神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了、博士(経営学)。沖縄大学法経学部専任講師(2002‐2003年度)。滋賀大学経済学部准教授(2004‐2008年度)。首都大学東京大学院社会科学研究科准教授(2009年‐2017年度)を経て現職。専攻は企業家研究、ソーシャル・イノベーション論。第4回日本ベンチャー学会清成忠男賞本賞受賞。第17回日本NPO学会賞優秀賞受賞。

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