父が狩る「大ネズミ」の唐揚げを食べる家族の日常 狩猟シーズンはほとんどスーパーで肉を買わない

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
(イラスト:『はっとりさんちの野性な毎日』より)

とはいえ、殺すことには後ろめたさがつきまとう。鹿の解体後、ウッドデッキに鹿の生首が転がり、ベランダの柵に鹿の生皮がべろんとかけられているのを見ると、げんなりする。散歩で通りかかった犬が鹿の血の匂いに反応し、キャンキャン吠えている。「ほら、な〜に、やめなさい」。飼い主さんがうちのウッドデキをのぞいて、ギョッとしたのが気配でわかる。

夫が会社に行ってしまうと、私はそれらをこっそり人から見えない場所に隠す。

ヌートリアをお弁当に

苦労して大型動物を仕留めて持って帰ってくる人と、それを受け取って食べるだけの人の間には、意識の差がある。

生協の宅配が届いた日、私が留守にしていたので文祥が発泡スチロールの箱を開けて食品を冷蔵庫に移した。すると、豚肉や鶏肉のパックが出てきた。

「肉、たくさん買ってるね」。帰宅後、イヤな予感が当たり、やはりイヤミを言われた。「たくさん鹿肉があるのに、どうして肉を買うの」

「いやー、だってさあ、お弁当もあるし」とごまかすが、どうも気まずい。

「鹿だけだと、やっぱり飽きちゃうのよ」

「じゃあ、鹿、イノシシ、ヌートリアって回せばいいだろう」

「ヒーッ」

はっとりさんちの野性な毎日 (河出文庫 は 32-1)
『はっとりさんちの野性な毎日』((河出文庫)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

そうこうしているうちに、文祥が岡山県の川でヌートリアを8匹も狩ってきた。今、ヌートリア猟がマイブームらしい。かんべんしてください、と私は思った。これまでにもヌートリアの肉を何度か食べたが、“ネズミ味”はあまりおいしくない。有蹄目の鹿は食料としてわりとすんなり受け入れたが、ヌートリアとなるとグッと人間に近い種という気がする。どこかの国ではごちそうだというから、これも習慣の問題なのだろう。

冷たく横たわっているヌーさんたちに申し訳なく、さすがに肉を買っている場合でも、文祥に文句を言っている場合でもなくなった。思いきってヌートリア唐揚げをたくさん作って、お弁当のおかずにも入れてみた。

帰ってきた子供に感想を聞くと、「いつもと同じ。普通においしかったよ」と言う。よし、と思った。

娘は中学校で、長男は都会の予備校で、父親が獲った大ネズミの唐揚げを食べていると思うと、なかなかいいな、とにんまりした。

【おまけ はっとり家の野性肉料理ベスト3】
1位 鹿ロースト 余熱でじっくり火を通すと固くならない。
2位 鹿ギョウザ ニンニク・ネギ・パクチーをたっぷり入れて!
3位 イノシシ汁 イノシシは圧力鍋でやわらかく煮てから加える。
(イラスト:『はっとりさんちの野性な毎日』より)
服部 小雪 イラストレーター

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

はっとり こゆき

1969年生まれ。イラストレーター。女子美術大学卒(美術学科洋画専攻)。在学中はワンダーフォーゲル部に所属。夫、二男、一女と横浜に在住。家族、ニワトリのいる日常をテーマにしている。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事