裸の王様?東芝では「実力者」に誰も諫言せず なぜ役員フロアにそのまま居残るのか

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この点について同社広報・IR室は「辞任した者に執務室は用意していない。辞任後、業務引き継ぎや残務整理、会社としての事実関係の確認、監査法人からのヒアリングなどの対応で会社に来ることがあり、その際に会社施設の提供をすることはある」とコメントするにとどまった。引き継ぎのために施設を使えるように処遇した、というわけだ。

関係者は、西田氏が自ら38階に残ることを希望しているわけではないのではないか、という。周りがそのように言い出せないだけのようである。つまり、西田氏は裸の王様になってしまっているのだ。

その社歴を通じ、西田氏が東芝に大きな貢献をした側面があるのも事実だ。イラン人の妻が現地法人に入ったのを機に1975年東芝に入社。1990年代、米国法人においてノートパソコンのシェアを世界一に押し上げた功労者だった。その手腕を買われて2005年6月に社長となり、米原子力企業の買収やフラッシュメモリへの巨額投資などの積極策を展開した。

リーマンショックに伴い2008年度で赤字に転落、2009年6月社長職を佐々木氏に譲ったが、在任中に東芝の収益を急拡大させたのは事実だ。ただ、今年7月公表された第三者委員会の報告書によると、西田氏が2008年、「チャレンジ」として出身母体のパソコン部門に利益の上積みを求めたことが、不正会計の拡大につながっていったとされる。

西田氏に関して筆者が最も印象に残っているのは、社長在任中のパーティーで記者団の一人として交わした会話だ。2007年にソニーが世界初の有機ELテレビを発売したのを受け、西田氏は東芝も2009年に有機ELテレビを発売すると宣言。その後撤回した。この件について「最初から出すと言わなければ良かったのでは」と軽く問いかけると、とたんに表情をこわばらせ「なかなか手厳しいですね」と返された。ずいぶんと負けず嫌いなのだ。

第三者委報告書は「当期利益至上主義と目標必達のブレッシャー」や「上司の意向に逆らえないという企業風土」が、不適切会計の背景だと指摘した。パーティーでのあの光景を思い起こすと、さもありなん、との気分にもなる。

残るにしても、けじめは必要

東芝社内には、発覚のあおりで半導体事業のエースの小林清志氏までもが副社長辞任に追い込まれた(8月1日付で顧問就任)のに、戦犯である元社長3人が厳しく断罪されない点を嘆く声がある。反面、外部取締役が半数以上となる新執行部では、「待ったなし」の厳しい事業環境に対応できないとして、一時的な居残りに理解を示す向きもある。しかし、残るにしろ、処遇の面ではけじめが必要だろう。

ちなみに童話では、悪どい仕立て屋が作った「愚か者には見えない服」をまとった王様が裸のままパレードに臨む。家来や沿道の群衆が愚か者扱いを恐れて何も言えない中、子供が「王様は裸だ」と叫んで幕となる。東芝のケースでは、生え抜き幹部からの諫言(かんげん=首を斬られるのを覚悟して目上のものを諫めること)が必要な局面だが、難しいのであれば新たに就任する社外取締役の面々が引導を渡すしかないのだろう。

駅 義則 東洋経済オンライン編集部

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えき よしのり / Yoshinori Eki

1965年、山口県生まれ。1988年に時事通信社に入社し、金融や電機・通信などの業界取材を担当した。2006年、米通信社ブルームバーグ・ニュースに移ってIT関連の記者・エディターなどを務めた後、2015年9月に東洋経済オンラインのエディターに。現在の趣味は飼い主のない猫の里親探し

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