大学授業料「無償化」の劇的効果と噴出する不満 授業料値上げはどれほど親たちを苦しめてきたか
しかし奨学金を利用してもなお、大学生のいる家庭の経済的負担は小さくありません。平均給与と家庭から大学生への給付額を比べてみると、データが揃っている直近2020年の平均年収約373万円に対して家庭からの給付額は約115万円と、およそ3分の1です。
これらは別々の調査データを組み合わせた数値ですので、一概に「大学には毎年、年収の3分の1のお金がかかる」と解釈することはできません。とはいえ、子ども1人を大学に通わせるにはそれだけ大規模なお金を充てなければならないというイメージの参考にはなるでしょう。
子ども3人以上世帯に限定する是非
こうしてみると、今回の大学授業料無償化案がもし実現すれば、大学生の子どもがいる家庭にはきわめて大きな支援になるのは間違いありません。これまでの支援策と違って所得制限が設けられませんので、多くの家庭が支援を受けられるようにもなります。
ただし対象になるのは子どもが3人以上いる多子世帯に限られます。現在の方針では子どもが3人以上いれば1人目、2人目の子どもも無償になる一方で、子どもが1人や2人の家庭では対象にならない見通しです。SNSではそのことを「不公平だ」「ずるい」という不満の声も上がっており、激しい議論を呼んでいます。
現在子どもが1人や2人の家庭でも、後に3人目が産まれれば対象になる可能性はあります。しかし、22歳年度末を超えたり、扶養を外れたりすると、子どもにはカウントされなくなります。
また、すでに大学生や大学進学が近い高校生などの子どもがいる家庭で今から3人目を産むことは現実的にあまり考えにくい、あるいは子どもが幼少でも、大学進学する十数年後の無償化が3人目を産むインセンティブになるとは思えない、といった声もあります。
「少子化対策」として挙がった案にもかかわらず、渦中の子育て世帯からも否定的な意見が目立ってしまっています。子どもが3人以上いる世帯、という支援対象の定義は、今後慎重に検討していくことが望まれます。
また、大学無償化を含めた少子化対策の財源確保には公的医療保険における「支援金」という形の保険料上乗せが検討されています。現在子どもを大学に通わせていたり子育てを終えたりした家庭にとっては、自分たちは自力でわが子の学費を工面したのに、他人の子どものために保険料を値上げされる形にもなりかねません。
上述の大学学費の負担を思えば、やりきれなさを感じても不思議ではありません。本質的な少子化対策を実現するには、世代間や家族構成の違いによる分断を防ぐ配慮が必要でしょう。
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