命奪われた被害者遺族が作る「人型パネル」の意味 年内閉館「いのちのミュージアム」が果たした役割

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ミュージアムは、学校に出かけていく「いのちの授業」にも力を注いでいる。子どもの自死や生きづらさに活動開始の初期から注意を払い、メッセージ展と遺族の講演を組み合わせ、「生きているだけで奇跡」と伝えてきた。

メッセージ展への関心や死生観も見る人の年齢とともに変化する。進学や就職などの節目に、1人でミュージアムに来たり、少年院から出所してすぐに立ち寄ってくれたりした生徒もいる。過去に見たメッセージ展を思い出し、その後、繰り返しミュージアムを訪ねる人も多い。

もちろんすべての子どもたちから打てば響くような反応が返ってきたわけではない。

「壇上から見ると、『またかよ』って感じで聞いてる子もいます。私は当事者として話すけど、重たく感じる子もいるかもしれないし、わかっていても命を大切にできない環境にあるのかもしれないし」

京井さんが講演先の学校で感じたもどかしさ。言葉だけでは思いが届かない体験をしてきたからこそ、視覚から入るアート展には強みがあるという。

命の大切さを自分事として考えてほしい

東京都日野市立日野第一中学校は今年2月、コロナ禍で中断していたメッセージ展を再開した。メッセンジャーには、部活動中の指導で亡くなった生徒も含まれている。

前校長の高橋清吾さん(64)によると、12年前、学校内での初めての展示会にはハードルもあった。生徒が大人に対する不信感を覚えるのではないかとの懸念が寄せられた。

だが、髙橋さんは「子どもたちに自ら考えてもらう機会に」と開催に踏み切り、生徒たちと同世代のメッセンジャー全員を受け入れた。

展示を見た生徒からは「友達と再会した。小さかったから、どうしていなくなったのか分からなかった。今はどうしてか分かった。メッセンジャーの前にずっと座った。じゃあねと言って別れた。会えて嬉しかった」という感想文も届いた。

「命の大切さは言葉だけの理解ではなく、感じ取ることが大事。『こういうことだったのか』と腑に落ちる体験をしてほしい。そして、自分事として考えてほしい」と高橋さんは力を込める。

活動の創始者でもある鈴木さんも、次のように言った。

「息子たちの未来や夢は奪われてしまったけど、今を生き悩んでいる子の助けに少しでもなるなら、息子の命は生かされる。若い人たちにつなげたい。託したいんですよ」

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