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イタリア人翻訳家が古典を愛す訳は「無駄だから」 仕事でミスした夜、救ってくれたダンテの言葉

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イタリア出身の筆者は、なぜ古典を愛するのでしょうか。画像は源氏物語絵巻(東屋・国宝)(写真:アフロ)
『竹取物語』『更級日記』『源氏物語』ーー。古典文学の登場人物が、まるで親友かのように語りかけてくる「超訳」に定評があるのが、『平安女子は、みんな必死で恋してた』などの著書がある翻訳家のイザベラ・ディオニシオ氏だ。イタリア人の同氏はなぜ、古典を“偏愛”するのか。

夜の公園でふいに浮かんだダンテの言葉

コテン……その単語を聞いて、多くの人が真っ先に思い浮かべるのは、ほこりをかぶった分厚い辞書や黄味を帯びた和紙と言ったものだろうか。

キケロの弾劾演説のたった数行を読み解くのに何時間も費やすイタリア人。『源氏物語』の一節の中で主語を探しあぐねている日本人。チョーサーの一風変わったスペルに苦しめられているイギリス人。

Isabella Dionisio 1980年生まれ。イタリア出身。大学時代から日本文学に親しみ、2005年に来日。お茶の水女子大学大学院修士課程(比較社会文化学日本語日本文学コース)を修了後、イタリア語、英語翻訳者および翻訳コーディネーターとして活躍中。近著に『女を書けない文豪たち』。東洋経済オンラインにも寄稿中(写真:筆者提供)

おそらくだが、古典イヤッ!という思いは万国共通である。私は昔から文学、とりわけ古典が大好きなので、そこまで憤慨したことはないが、気持ちがわからないでもない。誰にとっても座学はキツいものだから。

10年以上前になるだろうか。社会人になって間もなく、大きなミスをして顧客にものすごく怒られたことがある。クレーム対応に追われ、気がつくと真夜中。ぽつんと独りで会社にいた。零時をとうに回ったところでいても立ってもいられなくなり、オフィスを飛び出して近くの公園に逃げ込んだ。ベンチに腰をかけると、急にポロポロと涙がこぼれた。

そのときだった。満天の星を見上げて、ふいに頭に浮かんだのは、「E quindi uscimmo a riveder le stelle (そしてわれらは、星を再び仰ぎ見ようとして外に出た)」というダンテ『神曲 地獄篇』の最後の有名な一句だった。

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