左右の党派対立の前面に躍り出てきた。英語表記の単語の頭文字をとってCRTと呼ばれる。Critical race theory(批判的人種理論)をめぐり対立が激化しているのは初中等教育現場だ。右派から見れば人種問題教育での左派の行き過ぎ、左派から見れば右派の過剰反応が原因で、感情的な対立が起き「文化戦争」となっている。来年の中間選挙でも争点となりそうだ。
CRTは元来、1970~80年代に発展した法学の理論だ。人種差別を個人の偏見ではなく、法体系や制度、政策に埋め込まれたものとして論じた。この理論が急に論争の前面に出てきた背景は、警官に窒息死させられた昨年5月のフロイドさん事件後に高まったブラック・ライブズ・マター(BLM)運動であり、それに対するトランプ政権(当時)の反応だ。
BLM運動では「制度的人種差別」、すなわち奴隷制に始まり米国で歴史的に続いてきた、さまざまな形での制度としての人種差別が問題とされた。そうした問題意識を支えた1つに、米ニューヨーク・タイムズ紙が2019年8月に掲載した大々的な特集「1619プロジェクト」があった。
この特集は、バージニア植民地に初めて黒人奴隷が連れて来られた1619年を米国の建国の年と考えるべきで、1776年の独立の主たる動機は奴隷制維持にあったと論じ、右派だけでなく左派の一部からも反発を買った。著名な歴史学者らからも検証がずさんだと批判されたにもかかわらず、BLM運動の後押しもあって多くの高校で副読本に採用された。
トランプ政権は2つの措置でこれに対抗した。①愛国教育を推進するための「1776年委員会」の設置、②CRTに基づくような教育などへの連邦予算支出を禁ずる大統領令だ。これらの措置は昨秋の大統領選挙を前に選挙対策の一環としてとられた。
この記事は有料会員限定です
残り 695文字
