[Profile] やまぐち・ゆみ 1962年神奈川県箱根町生まれ。慶応大学法学部卒業。海外旅行とホテルの業界誌紙のフリーランス記者を経て作家活動に入る。著書に『アマン伝説 アジアンリゾート誕生秘話』『日本旅館進化論 星野リゾートと挑戦者たち』『箱根富士屋ホテル物語』などがある。
「民泊」という言葉にどんなイメージがあるだろうか。住宅街に見知らぬ外国人が押し寄せ住民との間でゴミや騒音のトラブルが発生、とネガティブな印象を持つ人もいるかもしれない。実は本書の著者もその一人だった。英語の「バケーションレンタル」に比べると、「民泊」にはどことなく貧乏くさい響きもあって大嫌いだったという。
そんな著者自身が民泊を始めることになったのだから人生はわからない。著者は、箱根にある日本を代表するクラシックホテル、「富士屋ホテル」創業家の流れをくむノンフィクション作家である。ホテルや旅館に関する著作が多く、海外のリゾートにも詳しい。いわば観光の目利きだ。どんな宿を手がけたのか、いやが上にも期待は高まる。
大平台温泉は箱根でも知名度が低く、過疎化と高齢化の著しい地域だ。ここに著者の生まれ育った実家がある。無人の離れは「ひと夏越したらシロアリで腐る」と専門家に指摘されるほど傷んでいた。どうしたものか。すると夫が「民泊はどう?」と言い出した。折しも住宅宿泊事業法(民泊新法)施行後のタイミング。迷った末、著者は民泊の経営に乗り出す決心をする。
けれど、客として泊まるのと宿の主になるのとでは大違い。次々と試練に見舞われた。例えば水回りのトラブルだ。原因は浄化槽に入り込んだ巨大な木の根っこ。取り出すと「井戸から出てくる貞子みたい」だったそうだ。「貞子」といえばホラー映画だが、富士屋ホテル創業家の次女、この家の最初の女主人の名も「貞子」であったという。そんなオチに思わず笑ってしまう。
楽しみながら体験記を読み進めるうちに、民泊開業までの手順やトラブル対処法などが自然と頭に入ってくる。本書は優れた教科書でもある。
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