有料会員登録 東洋経済オンラインとは
ライフ #厳選ノンフィクション

『実力も運のうち 能力主義は正義か?』 今も広く容認される偏見 学歴という「功績」の横暴

4分で読める 会員登録で読める
  • 堀内 勉 多摩大学社会的投資研究所教授・副所長、HONZ
実力も運のうち 能力主義は正義か?(マイケル・サンデル 著/鬼澤 忍 訳/早川書房/2420円/384ページ)書影をクリックするとamazonのサイトにジャンプします。
[Profile] Michael J. Sandel 1953年生まれ。米ハーバード大学教授。専門は政治哲学。80年代のリベラル=コミュニタリアン論争で脚光を浴びて以来、コミュニタリアニズムの代表的論者として知られる。講義の名手としても著名。著書に『これからの「正義」の話をしよう』など。

「運も実力のうち」という慣用句はよく聞くが、「実力も運のうち」というのはどうだろう。「実力」という言葉はフェアに聞こえるが、それが単に「生まれ」という「運」による幻想にすぎないとしたら。

そうした不都合な真実に切り込んだのが、米ハーバード大学のマイケル・サンデル教授による本書である。原題は“The Tyranny of Merit”、直訳すれば「能力の専制」だが、巻末の解説によれば“merit”の原義は日本語の「能力」よりも「功績」に近いという。

つまり、この原題が表しているのは「功績、とくに学歴という結果によって人生が決まってしまう能力主義(メリトクラシー)という仕組みの横暴」となる。

「学歴」は、ある人がその大学に入学できたという能力の証であり、功績でもある。しかし、現実を見れば、ハーバード大学の学生の3分の2は所得で上位5分の1に当たる家庭の出身だという。にもかかわらず、彼らは自分が入学できたのは努力と勤勉さのおかげだと思っている。

米国人は、米国が人種、性別、出自によらず努力すれば成功を手にできる機会を平等に与えられた社会だというアメリカンドリームを信じてきた。しかし今、こうした能力主義がエリートを傲慢にし、勝者と敗者との間に未曾有の分断をもたらしている。

そして、これは米国だけの現象ではなく、ヨーロッパで行われた社会心理学者のチームによる調査でも同様だった。大学教育を受けた回答者たちは、教育水準の低い人たちへの偏見が、そのほかの不利な立場にある集団(職業、人種、性別など)への偏見よりも大きかった。つまり、今日のように人種差別や性差別が糾弾される時代にあって、学歴偏重主義は広く容認されている最後の偏見なのである。

こちらの記事もおすすめ

あなたにおすすめ

ライフ

人気記事 HOT

※過去1ヶ月以内に配信した記事の閲覧数