[Profile] あべ・なおみ 1970年群馬県生まれ。獨協大学外国語学部卒業後、会社員を経てフリーランスのライターに。写真家の夫とともに日本全国を取材し、2007年からANA機内誌『翼の王国』で「おべんとうの時間」を連載。共著書に『おべんとうの時間1〜4』など。
弁当といえば、高校時代を思い出す。ある日、一心不乱に弁当をかっ込みながらふと顔をあげると、弁当箱のふたで手元を隠して食べる女の子が目にとまった。なぜあんな食べ方を? 気になって背後からそっとのぞくと、煮物の汁が茶色く染みたごはんが見えた。ミニトマトやブロッコリーのような彩りのない地味な弁当だった。
途端に動揺してしまった。自分の弁当も似たようなものだったからだ。田舎育ちの母が好んで弁当に入れるフキやタケノコの煮物が急に恥ずかしいものに思えた。弁当を通して、これまで意識することのなかった自分の姿を目の当たりにさせられた気がした。
著者はカメラマンの夫とともに、ANAの機内誌『翼の王国』の人気連載「おべんとうの時間」を手掛けている。取材をして文章にまとめるのはライターの彼女の役割だ。
近年、ブログやSNSに自作弁当の写真を載せる人が増え、弁当がブームになったことは記憶に新しい。だがブームになるほど著者は居心地の悪さを感じたという。弁当と愛情がいつもワンセットで語られるからだ。本当にそう単純なものだろうか。「弁当ブーム」の先駆けとして受けた取材でインタビュアーが「やっぱり、弁当にこめられているのは愛ですよね」とまとめようとするのにも著者は戸惑う。
実は著者はずっと弁当が嫌いだった。中学1年の頃、残り物のカレーだけが詰められた弁当を男子にからかわれて大いに傷ついた。ところが母親に抗議しても通じない。毎晩、同じものが食卓にないと不機嫌になる変わり者の父親と向き合うので手一杯の母は、娘の弁当にまで気が回らないのだ。マグロに少し筋があるだけで両親のけんかが始まってしまう。一人娘の著者は大急ぎで夕飯を済ませ部屋に逃げ込む。前の晩のおかずを詰めた翌日の弁当は、父の怒りや母の哀(かな)しみを吸い込んだような湿っぽい味がした。
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