『インファナル・アフェア』(2002年、原題『無間道』)は黒社会への潜入捜査官と、警察に潜入したマフィアの運命の交錯を描く香港犯罪映画(ノワール)の傑作だ。ハリウッドでのリメイク作品は米アカデミー賞で4冠を得た。
公開からしばらくして北京で同作を見て驚いた。善悪を超えた深い余韻を残すエンディングが改変され、中国本土版では警察に潜入したマフィアが逮捕されて幕引き。これでは凡庸な勧善懲悪劇だ。
中国当局の規制をクリアするためか、中国本土の客の好みを考えたのか。ラストシーンを2パターン撮影しておいたのだろう。いずれにしろ国際的な映画マーケットと、中国市場での商売に折り合いをつけるための苦肉の策である。香港映画における「一国二制度」の実践というべきだろうか。
しかし、こうした方便が通用した時代は、香港が米中の板挟みにされる現在から見れば牧歌的だったといえるかもしれない。
米国には150社を超える中国企業が上場しているが、その監査に米国政府は関与できない。中国政府の意向を反映してのことだが、米国側の投資意欲と中国企業の資金需要によるウィンウィンの構図の下で不問に付されてきた。
ところが米中関係の悪化、さらに新興カフェチェーンの瑞幸咖啡(ラッキンコーヒー)の不正会計発覚などが重なり、そうもできなくなった。5月には外国企業を対象にした上場規制法案が米上院を通過。事実上、中国企業を狙い撃ちにした内容だ。
いま香港で期待されているのは、米国で上場する中国企業が香港証券取引所にも上場するケースが増えることだ。米国上場が維持できなくなるリスクへの対抗策である。
19年11月には第1弾としてアリババ集団が香港に重複上場。もともと同社は14年時点でも香港上場を希望していたが、ガバナンス重視の観点から種類株の存在を理由に認められず、米国上場を選んだ経緯がある。取引所の方針転換で、香港上場が6年越しで実現した。今年6月には「京東集団(JDドットコム)」「網易(ネットイース)」が続いた。いずれも中国の代表的なIT銘柄だ。
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