[Profile] いがらし・たろう 1967年パリ生まれ。92年、東京大学工学系大学院建築学専攻修士課程修了。博士(工学)。東北大学大学院工学研究科教授。建築史・建築批評。第11回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展(2008年)日本館展示コミッショナー。
鴨長明の『方丈記』には、有名な「ゆく川の流れは」の後に、次のようなことが書かれている。美しい都で競い合うように並んでいた建物も昔からあるものはまれだ。火事で新しくなったもの、没落して小さな家になったものなど、同じものはない、と。
鴨長明が見た中世の都よりも極端なのが現代の東京かもしれない。世界的に見ても驚くべき速度でスクラップ&ビルドが繰り返され、わずか数年で風景ががらりと変わってしまう。本書は平成から令和へ、オリンピックを前に東京がいかに変貌したかをスケッチした一冊。都市建築のトレンドも把握できる好著だ。
近年の東京の変化のスピードは以前より激しさを増している。渋谷駅周辺、芝浦などいつもどこか普請中だ。この絶えず街並みが更新される状況を、著者は「見えない震災」と呼ぶ。災害や戦災ではないのに街が壊されるからだ。もっとも著者は保存原理主義者ではない。「すぐれた建築が壊されるとしても、その後に志のある建築がつくられるなら必ずしも反対しない」と都市の新陳代謝を柔軟に肯定する立場である。問題は、現代の東京の建築にはたして志があるかどうかだろう。
かつてバブル期には世界中から野心的な建築が集まったものの、現在の東京にはランドマークと呼べるような建築がない。建築史家・鈴木博之言うところの、優等生的な「ビジネススーツ・ビルディング」ばかり目につく。新国立競技場を巡る騒動もこの流れに位置付けられる。
ザハ・ハディドによる直線がほとんどない、うねるような流線形の挑戦的なデザインは、もし日本の施工技術とのタッグで実現していれば、世界的に注目される建築になる可能性があった。だがワイドショーを中心に、奇抜なデザインでコストが跳ね上がったと叩かれ、最後は安倍晋三首相の「英断」で白紙撤回された。実は国民の反対を押し切って安保法案を強行採決した直後だったのだが、残念ながらメディアは目をそらされたことに気づかなかった。
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