パナソニックの社内起業実験「ゲームチェンジャー・カタパルト」について夢を語る深田昌則代表は、ベテランでも若手のようにはつらつとしている。ほかの大企業にもこうした人材はたくさん埋もれているのだろう。
だが年功序列が幅を利かせる日本の大企業では、ある程度の役職に就くまでに従業員の多くが仕事への熱意を失う。社内政治をマスターしなければ、深田氏のようにはなれないのだ。
そもそも社内起業を成功させるには、トップが率先して旗を振らなくてはならない。ソニーの「プレイステーション」がよい例だ。当時経営トップの大賀典雄氏が後ろ盾となっていなければ、久夛良木健(くたらぎけん)氏のプレステ事業は社内の反対に間違いなく潰されていた。久夛良木氏と同じく、パナソニックの深田氏にも力強い後ろ盾がいた。同社で家電を扱うアプライアンス社の本間哲朗社長だ。カタパルトは本間氏の下で16年に立ち上げられた(同氏はその後、中国・北東アジア社社長に昇格)。
しかし、いくらトップが旗を振っても、従業員が失敗を恐れているようではダメだ。起業に失敗は付き物だからである。大企業には「減点主義」が蔓延している。新しいことに挑んで失敗すれば出世に響く。だからこそパナソニックにはカタパルトのような仕組みが必要だった。企画が採用された従業員はカタパルトに異動となり、多くは新設の別会社に籍を移すことになる。起業に成功すれば大金が手に入るが、失敗しても戻ることが許される。日本企業としては異例のやり方だ。「アイデアと経験のある人材は呼び戻す価値がある」と深田氏は言う。
とはいえ、最大の敵はおそらく別のところにある。大企業に巣くう縦割り意識だ。深田氏が示唆するところでは、カタパルトの企画は例外なく社内の抵抗に遭う。あれこれと口実を持ち出されては開発を拒まれるというのだ。前号で紹介した高齢者向けの調理家電もそうだった。海外のイベントで好評だったことから開発がスタートしたが、結局はお蔵入りになった。理由は「料理を喉に詰まらせる人が出てきたら、うちの看板に傷がつく。こんな危なっかしい商品は出せない」。カタパルトの企画を葬る方便だったともとれる。
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