【著者プロフィル】すぎはら・さとみ/1969年、長崎県生まれ。92年朝日新聞社入社。熊本支局、東京本社くらし編集部、社会部・教育班などを経て、2018年4月から朝日新聞専門記者(家族、教育分野などを担当)。家族をめぐる法律や社会保障、家計などを取材。
小学校に通う子どもの通知表を見ていたときのことだ。教科ごとに4つの評価項目が設けられているが、「社会」のところに「おや?」と目が留まった。項目がすべて同じ文章になっている。「もしかして誤記?」と思ったのだ。
よくよく見ると同じ文章ではなかった。だが、勘違いするのも無理はない。「我が国の歴史や伝統、世界の国々に〜」「我が国の歴史や伝統の意味について考え〜」など冒頭がすべて同じ文言だったのだから。なにこれ?
2017年、初めて行われた道徳の教科書検定が話題となった。ある教科書に載った教材に文部科学省が意見をつけ、教材に取り上げられた店が「パン屋」から「和菓子屋」に変更されたのだ。
文科省は具体的な差し替え箇所を指示したわけではないというが、教科書全体を通して「我が国や郷土の文化に親しみ、愛着をもつ」点が不足していたと説明している。パン屋よりも和菓子屋のほうが我が国の伝統にかなっているということなのだろうか?
これまで「教科外の活動」に位置付けられていた小学校の道徳は、18年4月から「特別な教科」へ格上げされた。戦後、保守派は一貫して道徳教育の復活を主張してきたが、ようやく念願が叶ったわけだ。この道徳の教科化を一気に進めたのは安倍政権だ。
「我が国の歴史や伝統」を愛するのは悪いことではない。ただ、それを無理に強調するとおかしなことになる。たとえば文科省が作成した副教材『私たちの道徳』(小学5.6年用)には、「江戸しぐさ」が掲載されている。これにならい全国で「○○小学校しぐさ」を作る動きが広がっているという。だが江戸しぐさは、芝三光という人物が戦後に創作した偽史であることが、歴史研究家の原田実氏によって明らかにされている(『江戸しぐさの正体』)。
この記事は会員限定です
残り 697文字

