朝9時、中国浙江省温州から内陸に入った田舎町で1日3本のバスを待っていた。30分ほどして、雑踏のホコリにまみれた中型バスが近づいてきた。
終点の林坑は古鎮と呼ばれる伝統的な様式を残す集落として、中国人旅行者の人気を集めていた。この集落を目指したのは2008年5月のことだ。
最後列で席にありつくと、同時に乗り込んできた少女が隣に座り、私が持っていたガイドブックの写真を横から食い入るように見ている。
これをきっかけに、中国語と英語での筆談が始まった。高校2年生で寮生活を送っており、労働節の休暇中、実家に帰るところだという。純朴を絵に描いたような彼女が、林坑を案内してくれることになった。まずは彼女の住む集落でバスを降りることにした。
この集落は、伝統的な木造建築が固まって構成されている。10戸が同じ棟となった長屋のいちばん奥が彼女の家だった。鶏とヒヨコを避けて家に上がると、男の子と女の子計3人がテレビを見ている。
部屋は薄暗く雑然としているが、2階の部屋にももう1台テレビがあった。もはやテレビは中国のほぼすべての家庭に存在し、日々、北京や上海のきらびやかな日常をお茶の間に持ち込んでいた。
彼女に連れられ、村を一周した。といっても10分もかからない。この地域の名産であるという竹の林、彼女の家の小さな畑、牛、そして数十戸の家屋が彼女を取り巻く日常世界のすべてだ。
家に戻ると、目の前の清流で作業をしていたおじいさんが戻ってきて、刀削麺(とうしょうめん)を作ってくれた。男のうえに外国人である筆者には不可思議なほど無反応である。
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