美食家を追ったドキュメンタリー映画『99分,世界美味めぐり』。世界中を食べ歩いてきたタイ人留学生が「龍井草堂」で「これまでの食事はいったい何だったのか」と涙ぐむシーンがある。
はたして料理で泣けるのか……。今年6月、上海行きの安い航空券を見つけたのを機に訪れた。
杭州の西湖にほど近い龍井草堂は、銘茶として名高い龍井茶の茶畑に囲まれている。8万平方メートルの敷地に個室が8部屋のみで、専属の服務員がつく。料理はお任せで920元(約1万5000円)。料理人は18人、スタッフの総数は100人を超える。
家庭料理とは別次元
「罪深い料理だ」と感じた。小指ほどのゆでた青菜の芯の部分が50ほど、小皿に整然と並んでいる。ぱっと見は農家の食卓に並ぶ家庭料理に見えなくもない。だが繊細で淡い口当たりは、この一皿が家庭料理とは別の次元のものであることを伝えてくれる。
この小皿料理の名は「舎得」。惜しまないという意味で、約5キログラムの青菜の中から、最も美味な芯の部分のみを提供する。余りはスタッフの賄いや家畜の餌になるという。フードロスは生じないが、自分だけがえりすぐりの部分を食すのは、やはり罪深い。
次に供された金蝉銀■(■は令に羽)は、蝉の幼虫に寄生する冬虫夏草「金蝉花」を投入した鴨のスープ。合鴨ではなく野生の真鴨を使っている。その後も、派手さこそないが滋味深く、毎日でも食べたいと思わせる料理が続く。
龍井草堂のオーナー・戴建軍氏は、杭州市内のレストラン経営で成功した人物。2000年に龍井にあった園芸店の敷地を手に入れ、理想のレストランを作ろうと決意した。目指したのは、中国で失われつつある過去の料理の再現だった。
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