大阪王将、黒字決算を支えるあの「ドル箱」の実力 コロナ禍で冷凍ギョーザが大健闘、工場増設も

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縮小

供給体制をさらに盤石なものとするため、積極投資の姿勢は緩めない。2022年10月には、新たに関東第三工場が稼働を開始する予定だ。同工場の生産能力は毎月約595トン。種々の商品を製造しているため一概には言えないが、主力の「大阪王将 羽根つき餃子」(タレをのぞき1パック280g)で換算すると、およそ212万パックにも及ぶ。

既存の関西工場では、ほぼ無人の状態でギョーザを作ることができる製造ラインを今年度中に導入し、手応え次第で全工場への拡大も検討する。人手不足や異物混入リスクなどの課題解決にもつなげる方針だ。

苦戦が続く外食事業でも手は打っている。大阪王将では、コロナ後も人が戻らないと見た繁華街エリアの閉店を急いだ一方、住宅街などへの積極出店を継続した。

中国の家電量販大手「蘇寧易購」傘下のラオックスと手を組み、中国の再進出ももくろむ。同社と共同で現地に子会社を設立し、ラオックスには出店立地の確保などで力を借りる。2021年10月に上海で1号店をオープンしており、数店ほど中国で出店して様子を見た後、拡大も視野に入れる。

積極投資の裏にはらむリスク

矢継ぎ早に次の一手を打ち出すイートアンドHD。ただ、果敢な投資には当然リスクもはらむ。

前期には財務体質の強化などのため大阪オフィスを12億円で売却したが、それでも2021年8月末時点での現預金はわずか17億円。キャッシュなどが月商の何倍あるかを示す「手元流動性比率」で見ても、上場する外食企業では下から数えたほうが早い。

イートアンドHDは、「効率的な資金管理ができており、売掛金の未回収リスクも少ない。積極投資についても、工場稼働後の売り上げ貢献は十分可能であり投資効果に見合う」と強調する。しかし裏を返せば、想定した売り上げ成長ができなかった時は危うい。

関東第三工場の設立に投じる約24億円の資金は、当然ながら融資で補填する必要がある。こうした借り入れの返済以外にも、新工場の償却費は重しとなり財務体質を痛める可能性は十分ある。

活況な冷凍食品市場について「スーパーなども改装のたびに冷凍食品のブースを広げており、まだまだ伸びる」と仲田社長は見通すが、巣ごもり需要の恩恵が今後減っていくことも考えられる。それまでに外食事業を立て直せていなければ、強みである「二毛作戦略」にほころびも生じうる。

外食企業を見回せば、冷凍食品などの外販を強化する動きが活発化してきた。先駆者であるイートアンドHDの二毛作戦略はコロナ後も通用するのか。業界全体を占う試金石ともいえよう。

中尾 謙介 東洋経済 記者

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なかお・けんすけ

1998年大阪府生まれ。現在は「会社四季報」編集部に在籍しつつ水産業界を担当。辛い四季報校了を終えた後に食べる「すし」が世界で1番美味しい。好きなネタはウニとカワハギ。

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