「空気を読まない人」ほど高く評価されるワケ 抱え込んでしまっては、いい結果は残せない

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私の先輩に、Sさんという日本人の研究者がいます。Sさんは日本だけでなく、ヨーロッパでも高い評価を得ていますが、「空気を読まない」ことで己を貫いています。

一方、Sさんと同じ研究所には、Hさんという日本人の研究者もいました。Hさんは皆を気遣って、自分の希望しない研究にも手を貸していました。しかし、評価はいまひとつ……。SさんもHさんも研究熱心で、優れた論文を書いていました。なのに、周囲からの評価は明らかに違う。あまりにも不公平な気もしますが、この違いはいったい、どのようにして生まれたのでしょうか?

「自分の得意なものが何なのかをよく知っており、自分が苦手なことはやらない」

つまり、

「周囲に自分を合わせるのではなく、周囲が自分に合わせるようにする」

これがSさんの最大の特徴でした。

Sさんは人の意向に自分を合わせるということを、まったくしませんでした。「苦手なものは苦手」と言って譲りません。またSさんは、苦手なところを克服するために時間や労力を使うのではなく、自分の得意なところをブラッシュアップするために使うのに徹していました。そして、「これはできそうもないな」という部分は、自分でやることを避けていました。得意な人を探してその人に任せるという方法で、苦手なところをカバーしていたのです。

抱え込んでしまっては、いい結果は残せない

実はこの方法、いい結果を出すには、非常に理にかなっています。まず、自分が苦手なところをフォローしてもらうためには、ほかの人を頼りにします。人は誰かに頼りにされるとうれしいものなので、基本的には喜んで引き受けてくれます。一方、自分が得意なことには、自分の能力をフルに発揮します。結果的に、自分にも、協力した人間にも、すばらしい成果がついてきます。

これは、Sさんが自分の得意分野を、「誰にもまねできないレベル」にまで高めていたからこそできることでもありました。「どんな仕事でも60点レベルで、無難にこなせる」より、「この仕事を90点以上のハイレベルでできるのは自分だけ」というものを徹底的に活かすわけです。そして、「自分では30点以下のレベルでしかできない」ことは、「90点以上のレベルでできる人」を探してきて、その人に任せればいいという考え方です。

この方法は、何でも1人でやろうとする「ゼネラリスト傾向」の強い日本人にはやや抵抗があるかもしれません。ですが、ちょっと思考法を変えるだけで、誰にでも実行できる方法でもあるのです。そして、結果的に、自分も相手もいい思いができる。さらに、「あの人ってすごいね!」と高い評価を受けることにもなるのです。

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一方でHさんは、Sさんとは正反対の性格。真面目すぎるところがあり、自分の苦手な物にも正面から向き合って、ちょっと無理をしてでも苦手なところを克服しようとするあまり、それに疲れてしまうような人でした。大変なことをすべて自分で抱え込んでしまうために、収拾がつかなくなるタイプです。

オールマイティーになれることなんて、めったにないのです。野球を例にしましょう。剛速球や変化球が自在に投げられ、ホームランを多く打てて、足が速くて、守備もうまいなんてことはまれでしょう。人は誰でも、得意・不得意があるもの。自分が不得意なところまで無理してカバーするよりも、得意なところを伸ばすほうがいい結果を出せますし、何より自分が楽しめるはずです。

「空気を読まない」というと、「周囲に気遣っていない」だとか「わがままだ!」というイメージがあるかもしれません。でも、周囲に迷惑をかけたり不快な思いをさせたりするとは限らないのです。Sさんの場合は、彼を助ける仲間がいい思いをするわけですから、空気を読まないことがむしろプラスに働いています。

「得意なことだけを貫く」。これは一見、自己中心的なようですが、好結果を残すには大事な要素。これを実践しているSさんこそ、「世界で活躍できる頭のいい人」だと思うのです。

中野 信子 脳科学者

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なかの のぶこ / Nobuko Nakano

医学博士、認知科学者。1975年、東京都生まれ。東京大学工学部卒業。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。フランス国立研究所にて、博士研究員として勤務後、帰国。脳や心理学をテーマに研究や執筆の活動を精力的に行う。現在、東日本国際大学教授。著書に『脳内麻薬』『ヒトは「いじめ」をやめられない』『サイコパス』などがある。テレビ番組のコメンテーターとしても活動中。

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