｢ジュゼップ戦場の画家｣が伝える戦中収容所の姿 スペイン内戦の政治難民をフランス政府が冷遇
彼自身、「自国の土地を追われる」というテーマに魅せられていたということと、スペイン内乱をテーマとしたケン・ローチ監督の映画『大地と自由』を通じて、スペインに興味を抱いていたということも、彼が心を惹かれた理由として大きかったようだ。
そんなこともあり、本のページをめくるたびに「これは素晴らしいアーティストに違いない」という思いが、見る見るうちに確信に変わっていった。
そしてその本の中に強制収容所のスケッチを見つけると、「これは悲惨な出来事を伝える重要な証言だ」と感じ、「この話をもっと深く知りたい」「彼の想いを理解し、引き継ぎ、自分のペンによって現代によみがえらせたい」という衝動に突き動かされる。
だが、ただジュゼップの絵を自分の手で描き直すだけでは何かが足りない。どうするべきかと思案を積み重ねた結果、バルトリの作品や人間性を表現するためには、アニメーションが最適であるという結論に至り、そこから10年の歳月をかけて本作を完成させた。
ジャーナリスト精神を持ち合わせていた
制作にあたっては、画家であるジュゼップに敬意を表するため、彼の作品やスケッチを実際にスクリーンに映し出し、アニメ化しているのもこの作品の特徴だ。
強制収容所内のシーンでは極力、アニメーションの動きは抑えめに仕上げ、スクリーンに映る「一枚絵」の強さを心がけたという。それはあたかもオーレル監督が主戦場としている新聞のイラストをほうふつとさせるものだが、それはこれまで彼が、新聞という時間的制約のある媒体で培ってきた「一枚絵の中で、しっかりと被写体の一連の動きや情報を伝えること」という技術が、本作でもしっかりと息づいていることの証左だろう。
デッサンや水彩画のようなタッチで収容所の悪夢的な閉塞感を描き出す一方で、フリーダ・カーロと愛を育んだ亡命先のメキシコでは、ヴィヴィッドな色彩で画面を彩るなど、ジュゼップが生きた時代ごとに線の描き方や、色の使い方などを使い分けることで、観客にジュゼップの心の変遷を伝えるよう工夫されている。
スペインの共和党員を収容した強制収容所では、数千人が亡くなるほどの劣悪な環境で、憲兵たちは彼らをまるで動物か囚人かのごとく残酷に扱っていた。
脚本家のジャン＝ルイ・ミレシは、「ジュゼップ・バルトリの作品の一番の特徴は強制収容所の暴力性を描いた点だ。わたしはこの暴力性を核とし、彼の絵や証言を物語のベースに置くことに決めた」と振り返る。
理不尽な暴力に苦しめられた、この絶望的な状況の中で、それでも彼が正気を保っていられたのは、絵を描いていたからだ。そのことが彼を生き延びさせ、そしてその証言が現代に残ることとなった。
ある意味ジュゼップは、画家でありながらもジャーナリストの精神を持ち合わせた人物であった。
スペインからフランスにやってきた難民たちの知られざる歴史の実態にスポットを当てた本作だが、それからおよそ80年たった今でも、世界中で難民問題はクローズアップされている。期せずして現代にも通じるメッセージを感じさせる作品となっている。
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