働き方改革で消耗していく「中間管理職」の悲劇 問題解決をすべて背負わせるのは無理がある

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では、この「受難」の時代をどう乗り切るべきだろうか。まず企業側は、今後も新たな課題が降ってくるたびに、管理職負担が増えていくインフレ構造をどこかで断ち切るのが先決だ。企業は、「働き方改革」「コンプライアンス」「ダイバーシティー」「組織開発」といった個々の組織・経営課題を、すべて「マネジャー頼み」「マネジメント・スキル頼み」にすることを避けるべきだろう。

次に、現状の管理職が置かれているコンディションの正確な把握からスタートするべきだ。長年の組織運営で、管理職の役割が自然に増えている場合が多い。①労働時間の面、②担っている役割の面から、現状を正確に把握したい。

その一方で中間管理職本人も、すべて自分で「背負い込む」ことをやめることが、この時代を生き残るための第一のサバイバル術だ。

マネジメントの役割は、「オペレーション・マネジメント」と「ピープル・マネジメント」とに大別できる。前者は計数管理や進捗管理・全体の業務運営であり、後者は、部下の動機づけ、育成、教育だ。複雑化したビジネス環境と働く価値観の多様化によって、ともに難度を増している。

組織外のリソースも活用を

オペレーション・マネジメントは、ITツール活用で負担を軽減できる部分が大きい。幸い、ICTの発展によって、業務管理のツールはすでに多く存在する。チャットでの情報連携やマニュアルの進捗管理、書類のデジタル回覧など、補助してくれるツールを、事業部・チームといった小さな単位であっても、積極的に投資するべきだろう。

ピープル・マネジメントは、組織内の「人」を頼れる部分だ。今の管理職は、経験豊富なシニア社員が部下にいることも多い。彼ら彼女らに自分がケアできない若手の話を聞いてもらうなど、「右腕」的に頼れる部分はある。上司部下以外のメンター制度や、外部のキャリア・カウンセリングの積極的利用も選択肢としてあるだろう。

日本企業には、リソースやノウハウが不足していても自社でなんとかしようとする自前主義的な傾向が見られるが、これからの管理職も、自前主義に陥らず、組織外を含めた周囲のリソースをいかに活用できるかが肝になってくるだろう。

管理職にも、一人ひとりのキャリアがある。目の前の仕事を回すのに必死な状況では、新しいスキルの蓄積もできず、自分の将来を考えるための余裕も生まれない。出産や育児とのバランスをとるのも難しく、女性管理職や男性育休の推進といった今日的な課題とも折り合いが悪い。中間管理職が、これからも組織運営の要であり続けるためにも、働き方改革によって起こっている「管理職の地盤沈下」を防がなくてはならない。

小林 祐児 パーソル総合研究所 上席主任研究員

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こばやし ゆうじ / Yuji Kobayashi

上智大学大学院総合人間科学研究科社会学専攻博士前期課程修了。NHK 放送文化研究所に勤務後、マーケティングリサーチ・ファームを経てパーソル総合研究所に入社。専門は理論社会学・人的資源管理論・社会調査論。テレビ・ラジオ出演・各種新聞などへの寄稿多数。主要著作に『残業学──明日からどう働くか、どう働いてもらうのか?』(光文社、共著)『会社人生を後悔しない 40代からの仕事術』(ダイヤモンド社、共著)など。

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