「バブルの怪人」と債権回収人の死闘にみる教訓 『トッカイ』で清武氏が描きたかったこと

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清武英利氏は、「不良債権の混乱の中で身を翻すことのできなかった、『後列の人々』を描きたかった」と話す(撮影:尾形文繁)
経営破綻した山一證券の社員らの姿を描いた『しんがり』や、外務省機密費流用事件を追う刑事たちを描いた『石つぶて』などで知られるノンフィクション作家の清武英利氏が、新著『トッカイ バブルの怪人を追いつめた男たち』(講談社)を著した。清武氏は読売新聞の元記者で、読売巨人軍の球団代表を務めた人物としても知られる。
若い世代には「住専」という言葉自体、もはやなじみがないかもしれない。住専とは「住宅金融専門会社」の略で、個人向け住宅ローンを扱うノンバンクの一種である。バブル崩壊の過程で巨額の不良債権を抱え、1996年に住専7社に対して合計6850億円の公的資金が注入された。当時、設立母体や貸し手の責任、公的資金投入の是非などをめぐって、国全体を巻き込む大きな政治的問題となった。
清武氏の新著では、その住専が生んだ巨額の不良債権を舞台に、不良債権を取り立てる側に立った名もなき人々と、「借金王」や闇世界に通じた借り手との緊迫感に満ちた攻防が生々しく描写されている。
30年余に及ぶ「平成」という時代が終わりを告げた今、清武氏は『トッカイ』を通じて何を問い掛けようとしたのだろうか。本人を直撃した。

今も不良債権を追いかけている

――このテーマを取り上げるきっかけは何だったのですか?

僕は元々、住宅金融債権管理機構と(その後身である)整理回収機構の取材をしていた。当時は山一證券も含めて金融機関の破綻が相次いでおり、僕は(読売新聞の)デスクになってからも、企業犯罪と不祥事の取材を続けていた。住専問題はその中の1つだった。

(新聞社の)経済部でも事件取材に関わらざるをえない人たちがいる。イトマン事件のように、会社を取材していると、事件の深みにはまっていく住友グループがある。会社を取材しながら、犯罪を取材していく人たちが「経済社会部」。

一方で、自分自身は「社会経済部」の人間だと思っている。僕は社会部から入って、経済事件で企業社会のありさまをいろいろ取材することになった。(弁護士で、整理回収機構の初代社長を務めた)中坊(公平、2013年に死去)さんにも何度か会って、中坊さんの手紙を(新聞で)取り上げたこともあった。

『しんがり』を書いた後に、ある人から「今も整理回収機構があるんですよ」と言われた。みんな驚くが、まだあるんですよ。昔、二千数百人だった組織が今三百数十人の組織になっているが、今も存続して、(大阪の不動産会社・末野興産社長で、「ナニワの借金王」と呼ばれた)末野謙一氏を含めて、何人もの人間を追いかけている。

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