巻頭対談(WEB限定版)
日本のリーダーが世界で戦うために必要なこと 岡田武史(サッカー元日本代表監督)×近藤聡(デロイト トーマツ コンサルティング 代表取締役社長 パートナー)

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近藤 興味深いですね。岡田さんご自身が、そうした「変化」の必要性を実感されたきっかけは何かありましたか?

岡田 3.11の東日本大震災は大きなきっかけでした。あの後「元に戻そう」と言う人もいましたが、違和感を覚えました。これまでのやり方では、いろいろな面でもたない。倉本聰さんが主宰されていた富良野塾の起草文に、「あなたは文明に麻痺していませんか/石油と水はどっちが大事ですか/車と足はどっちが大事ですか」という言葉が出てくるのですけれど、3.11をきっかけにして、私たちはこれまでの過去や歴史にしがみついてもとに戻そうとするのではなく、私たちにとって一番大事なものは何かを考えて、変わっていかなければいけないと思います。

近藤 我々も、今までの、競争相手にどう打ち勝って利益を生み出すか、ということを考えているだけでは、おそらくこれから先、立ち行かなくなるのではないかと考えています。これまでのスタイルでは、すぐ短期的に追いつかれるので、ずっとぐるぐると走り続けていなければいけない状況に陥ってしまう。利益を出すだけではなくて、さらにその先を求めていくような企業でないとこれからは生き残っていけないのではないか、そのような問題意識が非常にあるんです。

岡田 しかし、厳しい現実を前に「そうは言ってもね」という意見に打ち消されることが多いのが実際ではないでしょうか。

近藤 そうですね。それは我々もビジネスの現場で感じています。この壁を突破するには何が必要だと思われますか。

岡田 「結局、何のためにやるのか」を突き詰めて考えることではないでしょうか。私の場合は、選手やスタッフ、その家族を笑顔にすること。そして、「子どもたちの笑顔が見たい」というところに行き着きます。震災直後、避難所でサッカースクールを開いたんですが、そこで子どもたちと写真を一緒に撮ったりサインをしたりすると、喜んではもらえる、けれどやっぱり、先が見えないからか本当の笑顔にならないんですよね。

ところが、グラウンドで子どもたちを集めてサッカーをしはじめると、70歳ぐらいのおばあさんが、「私も入れてくれ」と言って入ってこられて、彼女が、ヘディングをしたりなんかしてみんなで盛り上がって。見たら避難所の人が全員出てきていて、みんなが最高の笑顔をしているんです。そのときに、人間が生きている理由は、周りの人たち、特に子どもたちの笑顔を見るためだなと思ったんです。そのことが、自分自身にとっても一番幸せなんだという感覚があったんですね。そんなこともあって、子どもたちの時代のためにいま何をすべきかと考えれば、私たちや社会にとって何が一番大切なのか、意外と簡単に答えが出てくるものだと思いますね。そこから、私たちがやるべきことも明らかにしていくことができるのではないかな、と思います。

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