日本は大坂なおみの二重国籍を認めるべきだ パックン「さもないと米国籍を選択するはず」

拡大
縮小

まず、日本国籍にするメリットを考えよう。大坂選手の場合は、日本企業から莫大なスポンサー料がもらえるなど特別な利点ももちろんあるが、この文化、社会、歴史、未来においても素晴らしい日本の一員になれる、ということが一番のメリットだ。国籍があれば、日本で仕事もできるし、仕事をしていなくても日本にいられる。投票ができる。大好きな日本にフルで参加できる。日本人でいれば、世界中の人に好かれるし、世界中の子供から忍術ができると思われる。いいことずくめだ。

(日本国籍は本当に魅力的。心からそう思っている。この話題においては冷静沈着に分析しているつもりだが、僕のバイアスは必ず見え隠れするだろう。むしろ隠さずに本音をはっきり言おう。日本の国籍がほしい。忍者になりたいし)。

アメリカ国籍を抜くと税金がかかる

では、そんな最高の日本国籍のために、大坂選手が払う代償とはなんだろう。それは、アメリカ国籍の放棄による損失。思い入れや感情は本人にしか分からないから触れないようにするが、それでも厳しい計算になる。まず、国籍がなくなるとアメリカで投票する権利、労働する権利、長期滞在する権利などがなくなる。申請すればもらえるものもあるが、親に付随する形になり、自分の権利じゃなくなる。自分の子供にアメリカ国籍を与える権利もなくなる。つまりアメリカ人じゃなくなり、訛りだけが残る。

もちろん、日本の国籍を放棄しても、同じ権利をなくすことになる。大坂選手にとっては、今まで日本でそれらの権利をほとんど使ってもいないので喪失感は比較的軽いかもしれないけど、それだけの計算だったら、アメリカを捨てて日本を取る可能性が十分あるかもしれない。しかし、それだけじゃない。

制度の違いから、国籍の選択によるダメージが日米で大きく変わる。まず、アメリカ国籍を放棄すると相続税の免除が消えるから、親が亡くなったときに支払う税額がぐんと上がる。さらに、実は国籍を放棄するときにかかる特別な税金がある。Expatriation tax(国籍離脱税)といって、脱税目的の「名ばかり帰化」を抑止するために設置されたものだが、国籍を失う場合、全財産の20%を税金としてアメリカに納めないといけない。いろいろな条件はあるが、大坂選手はたぶんこの税金の対象者になるだろう。日本にも国籍を放棄して海外に移住する人に対する税金はあるが、既に在米の大坂選手にはかからない(さっき税務局に電話して確認したが、担当者は明らかにそんな質問は初めてという様子だった)。

ざっと計算しよう。先日優勝した全米オープンの賞金は約4億円。それだけでも、20%で8000万円の納税額になる。その上、大坂選手の収入はこの先急増し、年間15億円になってもおかしくないといわれる。それに対する税額は相当な数字になる。

どうだろう? あなたなら、住んだ記憶がない国の国籍を持ち続けるために、育った国の国籍を捨て、国籍離脱税の数億円をドナルド・トランプ大統領に渡す? 僕なら、きっと迷う。というか、まだ1回も全米オープンを優勝していない僕でさえ、その選択についてずっと迷っているのだ。

そう考えると、大坂選手は日本のユニフォーム姿でオリンピックに出ない可能性が大きい。しかも、実はオリンピック憲章によると、一度ある国の代表になった選手は3年間経たないと、他の国の代表になれない。ということは、大坂選手はアメリカ人のままでもアメリカ代表になれなく、新国立競技場で見る姿も普段着かもしれない。

犠牲にするものが大き過ぎるからアメリカ国籍を棄てない、と決めたら、日本国籍を持てないし、東京オリンピックにも出られない。大坂選手、かわいそう! 日本のファンもかわいそう! 考えるだけで泣きそう。

次ページ国籍法の改正を考えてみる
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT