子どもの20年後のために親ができること
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学校教育にも採り入れられることが決まり、何かと話題のプログラミング。2015年からプログラミング教育の支援をする特定非営利活動法人みんなのコード代表の利根川裕太氏が語るのは、「すべての子どもにプログラミング教育を届けないとフェアではない」ということ。そして、「タイミングさえ合えば、多くの子どもがプログラミングに熱中する」ということ――。

利根川裕太(とねがわ・ゆうた)特定非営利活動法人みんなのコード代表理事●慶應義塾大学経済学部卒業後、森ビルを経て、ラクスルへ。文部科学省「小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議」委員などを歴任。主な著書に『先生のための小学校プログラミング教育がよくわかる本』(翔泳社、共著)がある

すべての人に必要なプログラムへの理解

「プログラミングに興味を示さない子に無理強いすることはありません。時間を置いて、また機会を提供してみると良いのではないでしょうか」

特定非営利活動法人みんなのコード代表理事の利根川裕太氏はそう語る。子どもにデジタルの素養を身に付けてもらおうと考える親は多いが、案外興味を示さない子どももいる。そんなとき、「焦らないほうが良い」と利根川氏は言うのだ。

利根川氏は2015年から同法人でプログラミング教育の普及促進に取り組んでいるが、そのキャリアはユニーク。プログラミングを本格的に始めてからまだ10年も経っていないという。

「大学を出てから最初はいわゆる大企業に勤めました。入社後、数年して『40~50代にならないと大きな仕事はできない』と感じていたとき、創業するタイミングだったラクスルを紹介してもらい、会社の休みや業務が終わった後の時間にお手伝いをするようになりました。当時は、社長の松本恭攝さんと私の二人だけで仕事をしていました」(利根川氏、以下同)

ラクスルにかかわり始めてから、すぐに必要になったのがプログラミングだった。

「ラクスルは表面的には印刷サービスの会社ですが、その内実は、配車アプリ『ウーバー』がタクシー会社ではなくIT会社であるのと同様に、テクノロジーで社会を変えている会社です」

09年時点では、企業に所属したままでラクスルにかかわっていた利根川氏だったが、11年にラクスルのビジネスと、自身のプログラミングスキルの両方に手応えを感じて、ラクスルに移ることを決断。エンジニアとして仕事をしていくうち、利根川氏はエンジニアと非エンジニアの間で、プログラムの知識以外にも考え方などに違いがあると感じるようになったという。

前述のようにラクスルは「テクノロジーで社会を変える」ことを目指す企業であったため、直接プログラムを書かない人であっても、仕事の全体像などを理解するためにはコンピュータやプログラムへの理解が重要だったのだ。

いつしか、利根川氏は有志の社員に対し、昼休みや終業後の時間を使ってテクノロジーの自主勉強会を開くようになった。その流れの中でプログラミング教育推進運動「Hour of Code」を知るようになる。そして、「Hour of Codeの本来の主旨に沿って、子ども向けにもやってみたい」と思うまでに時間はかからなかった。

コワーキングスペースを借り、子どもの参加者を十数人集めてワークショップを開催したところ、「子どもからの反響が予想よりずっと大きくて、面白いと盛んに言ってもらいました。すごく手応えがありました」。

その後、大きな決断をする。「学校でのプログラミング教育を専門でやる非営利団体は当時まだなかったし、これをやれば国や社会が少しでも良くなるんじゃないかという使命感に動かされました」。利根川氏はラクスルを退社し、15年、一般社団法人みんなのコード(現:特定非営利活動法人みんなのコード)を設立した。

すべての子どもにプログラミングを

みんなのコードの活動は、小学校でのプログラミング教育の普及推進だ。20年度からプログラミングが必修化されるが、学校現場での前向きな声は小さく、試行錯誤が続く。以前からICT教育に力を入れている学校もあれば、必修化が決まって焦る学校、関心が薄い学校もあるなど、教える側の知識や準備にもバラツキが出ている。

利根川氏は「地域によってプログラミングに対する熱意に大きな差があります。一部の子どもだけにプログラミングを学ぶ機会があるのはフェアではなく、すべての子どもに届けることに価値があると思っています」と話す。

利根川氏がオススメする「プログラミング学習のためのパソコン選びのポイント」は以下の三つ。①お店に行って、実際に触ってみること、②タッチスクリーン付きパソコンは、ビジュアルプログラミングに相性がいい、③キーボード付きのパソコンなら、より高度なテキストプログラミングにもつながる

プログラミング教育が子どもたちの人生に与える影響は三つあるという。一つ目は、プログラミングがキャリアを築くうえで役に立つということ。「プログラマーになる以外にも、さまざまな業務へテクノロジーを生かそうとする際に、プログラミングの知識が非常に役立ちます。子どものうちから『プログラミングは面白い、できそう、役立ちそう』と気づくところから熱中し、大人を驚かせるレベルになれば、その子どもの人生だけでなく社会にも影響を与える可能性があります」。

二つ目は「プログラミング的思考」と呼ばれる、論理的な思考法が身に付くこと。「国算理社のような科目に応用できるだけでなく、論理的な文章を書くなど、教科をまたいでさまざまな場面で役に立つと思います。中学校以上になってからの勉強でもそうですし、大人になって働き始めてからも役立つでしょう」。

三つ目はプログラマーという仕事に対するイメージの改善だ。「これは職業のミスマッチが大きな原因だと思っています。プログラムに触れたことのない人が、新卒採用でプログラマーになることがよくあります。プログラムが性に合っていれば問題はありませんが、そうでない人もいます。そして、いい思いをせずに辞めてしまい、その影響が広がってしまう。このミスマッチは、事前にプログラミングの経験があればかなり解消できるはずです」。

みんなのコードは、週に2~3回全国に出向いて小学校の先生に研修などを行っており、すでに100カ所以上に赴いている。「いっさい問い合わせなどがなかった3年前の状況からすると、隔世の感があります」と利根川氏は笑う。研修以外に、教職員向けのシンポジウムを開催するなど、みんなのコードに対する世の中の需要は高い。

では親は、どうすればいいのか

プログラミング教育推進運動「Hour of Code」とはどんなものか、実際に見ていこう。

Hour of Codeとは、ざっくり言えば、「1時間(=Hour)プログラミング(=Code)してみよう」というプログラミング普及啓発活動だ。とはいえ、多くの大人にとって、プログラミングを教えようとするとその時の教材に何を使えばいいのかが課題になる。

そこでHour of Codeは、人気のテレビゲームやアニメの中に、プログラミングによって作ったキャラクターなどを登場させて動かすことができるものを提供している。パソコンのブラウザで利用でき、アプリケーションやソフトをダウンロードする必要はない。

たとえば、マインクラフトを題材にしたアクティビティだと、まずキャラクターを選ぶところから始まる。最初の課題は、エージェントを使ってドアを開けさせ、キャラクターを部屋の中から外に出してチェストを回収するというものだ。課題をクリアするために、機能ごとに分かれたブロックを組み合わせて指示しなければならない。

と、このように文字で説明してもなかなか伝わらないので、未経験の人はまずは試してほしい。ヒントとなる動画もあるので、大人であれば難しくないはずだ。

Hour of Codeにあるマインクラフトのページ。右側にあるブロックをワークスペースに組み合わせることで、左画面のキャラクターが動く。これは最初のページのためにブロックが一つだが、進めるにつれてブロックの種類が増える

キャラクターを自分が思ったように動かすために、子どもたちは自分の頭で考え、ブロックの置き方を変えていく。その繰り返しで、パソコン操作に親しむと同時に、プログラミングに慣れていく。ただ、その思考が「プログラミング的思考」に直結するのかと言えば、そんなに簡単なものではないという。

「プログラミングは楽しい、自分でも書けるんだというのが先に来て、夢中になった結果として論理的な思考が身につく、ということだと思います」。大人はついつい論理的思考力や21世紀に必要なスキルから考えてしまいがちだが、子どもには、まず慣れて楽しんでもらうことが第一だ。

冒頭の話に戻ろう。「まず、何もしないと子どもがプログラミングと出合う機会があるとは限らない。親自身が興味を持って一緒に楽しむなど、子どもが興味を持つような機会の提供が親の役目でしょう」と利根川氏は語る。

しかし、機会を与えても、子どもがプログラミングに興味を持たないときはどうしたらいいのだろうか。利根川氏は「親のエゴで無理やりやらせて嫌いになるよりは、成長を待ってタイミングが来たときにやればいいと思います。適切なタイミングで、プログラミングを経験する機会があれば子どもは熱中し、すぐに大人のレベルを超えるでしょう」と語る。

そして、熱中したときにも注意が必要だという。「気をつけていただきたいのは、つい正解に導きたがってしまうことです。教育熱心な親だと特にその傾向が強いようです。プログラミング学習は悩んでいる時間に価値があり、正解を出すことよりも過程が大事です」。

プログラミングを通して子どもたちが積み重ねた思考が、やがては新しい未来をつくるヒントを生み出す。以前の連載で夏野剛氏も語っていたように、そのために大人たちができることは「経験する機会は与えて、あとは子どもたちに任せるしかない」ようだ。

ヤマダ電機のプログラミング教室

全国の約60店舗にて「Hour of Code」「Scratch」などの講座を開いている。教室では生徒がまったく同じことをするわけではなく、それぞれの課題に取り組むため、自分のレベルに合った学習ができる。週1回のコースや月1回のコースなど店舗によって実施回数や内容が異なるので近くのヤマダ電機で確認したい。

教材 Hour of Code のマインクラフト、Scratch
対象 小学1年生~6年生
時間 60分
操作 マウスを使って、ドラッグ&ドロップ
主な学習内容 順次処理、LOOP、IF文
詳しくはこちらから