口座開設でトラブルも NISAの落とし穴 銀行、証券の口座獲得競争で懸念が生じている

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だが、営業姿勢が前のめりになるほど、制度や商品の説明という基本原則はおろそかになりがちだ。結果として、一部では一口座限定という制度の説明を棚上げしたようなセールスが行われ、利用者が複数の銀行、証券会社に申請書を渡すという事態が起きている。専用口座開設の申請受付開始日が10月1日に迫る中で、顧客への適切な説明を伴わない営業活動が広がるおそれもある。

同一日の複数申請は無効

それでは、同一名義で複数の申請があった場合はどうなるのか。

申請日が異なる場合は、より早い日にちに申請手続きをした金融機関に専用口座が開設される。2番目以降の金融機関は落選となるが、投資家にはデメリットは生じない。

だが、同一日に複数の申請があった場合は厄介だ。税務署はすべての申請を受け付けずに無効とするからだ。口座開設にかかわった銀行や証券会社は痛み分けとなり、NISAを利用したい投資家はあらためて申請し直さなければならなくなる。

そうなると、申請書を得た複数の金融機関の間で顧客獲得が蒸し返されることになる。場合によっては、金融機関と顧客の間で「説明した」「説明を受けなかった」というトラブルに発展する可能性もある。

金融庁もこうした事態の発生を懸念し、NISAの取引勧誘に関する監督指針を策定した。その中では、「顧客に対する説明態勢の整備」として、「非課税口座については、金融機関を跨った複数開設は認められず、一人一口座のみ開設が認められること」など、複数の項目が具体的に明記されている。

せっかくの新制度も、無用な混乱を引き起こすだけでは、導入の意義が問われかねない。銀行や証券会社は、自社のNISA営業が地に足の着いた活動に徹しているかどうか、あらためてチェックすべきだ。

週刊東洋経済2013年7月20日号

浪川 攻 金融ジャーナリスト

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なみかわ おさむ / Osamu Namikawa

1955年、東京都生まれ。上智大学卒業後、電機メーカー勤務を経て記者となる。金融専門誌、証券業界紙を経験し、1987年、株式会社きんざいに入社。『週刊金融財政事情』編集部でデスクを務める。1996年に退社後、金融分野を中心に取材・執筆。月刊誌『Voice』の編集・記者、1998年に東洋経済新報社と記者契約を結び、2016年にフリー。著書に『金融自壊――歴史は繰り返すのか』『前川春雄『奴雁』の哲学』(東洋経済新報社)、『銀行員は生き残れるのか』(悟空出版)などがある。

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