アンジェリーナ・ジョリーという生きかた 誰も彼女の決断を遮ることはできない

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離婚の噂については、後になって出てきたいくつかの続報を勘案して判断するに、アンジーが離婚届を申請したところまでは確認がとれている。離婚のための書類を提出するに至った理由に関しては、諸説があって、そのどれもウソくさい。イルミナティーがどうしたとかいった陰謀論まで出てきている。毎度のことながら、実にバカな展開だ。離婚届の申請が、そのまま離婚につながるのかどうかも、現時点では見当がつかない。なので、当稿では、この噂をこれ以上追うことはしない。大切なのは、アンジーがまたしても新しい決断に向けて歩み出そうとしていることで、その痛ましい決断を、年の離れた妹の波瀾万丈の生き方を田舎の長兄みたいな気持ちで遠くから眺めている私が、結局のところ、受け容れざるを得ないということだ。

彼女の生き方にはいつも心を動かされている

女優としてのアンジーに関して、私は、昔から彼女の私生活に注目し過ぎていたせいなのか、映画の中に出てくる彼女を、独立した役柄として見ることが難しくなっている。もっとも、スクリーンの中に登場するアンジーのあざやかな変貌ぶりには、毎度、心を動かされる。『グッド・シェパード』の後半のババアっぷりの見事さや、『マレフィセント』のポスターに登場した姿の激ヤセっぷりは、見る者を複雑な気持ちにさせる。なんというのか、作品としての映画の枠組みを超えて、一人の生身の人間としての女優の境涯に関心が集中してしまう意味で、彼女は特別な人間なのである。

残念なのは、この2年ほど、わが国のネット社会で、彼女について「反日」という言葉を使って痛罵する人々の姿が目立つようになってきていることだ。なんでも、彼女がその2作目の監督作品である『不屈の男 アンブロークン』という映画の中で、日本人の登場人物を、否定的に描いたことが、一部の愛国的なネット民の反発を買っているらしいのだ。

この毀誉褒貶にさらされることの多い、極端な女性について、かつて、父親のジョン・ボイトが、なにかのインタビューの中で、何年も連絡がとれていないことを明かしつつ、自虐的なジョークを飛ばしていた姿を思い出す。アンジーは、ファンを年老いた父親みたいな気持ちにさせる。その意味で特別な女性だ。あるいは、彼女の私生活そのものが「正直過ぎる人間の苦闘」というテーマで撮影された作品であるのかもしれない。

私は、必ずしも正直な人間ではないが、彼女の生き方にはいつも心を動かされている。

なんとか生き延びてほしい。

心からそう思っている。

(文:小田嶋隆)

小田嶋 隆 コラムニスト
おだじま たかし / Takashi Odajima

1956年東京赤羽生まれ。早稲田大学卒業。一年足らずの食品メーカー営業マンを経て、テクニカルライターの草分けとなる。国内では稀有となったコラムニストの1人。著書多数。2022年、65歳で逝去。

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