「死因は家」とならないために
高気密・高断熱が健康寿命を伸ばす

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「世間体からあまり記録には残りませんが、救急隊員の方々の話では、冬場にトイレで亡くなる高齢者もかなりの数になるそうです。家の中でトイレはだいたい日の当たらない寒い場所に設置されます。夜間、体温近くまで暖まった布団から起きて寒いトイレに行くのは、高齢者の体にかなりの負荷をかけるのです」

不慮の事故だけでなく、呼吸器系、循環器系、神経系などさまざまな病気も、冬に病状が悪化し死亡するケースが多いとされている。世界五大医学雑誌の一つとして知られる『ランセット』(イギリス)に掲載された調査によれば、日本人年間120万人の全死者のうち、9.8%が温度低下による影響で亡くなっているという。つまり、約12万人ということだ。

冬の気温低下によるリスクは
夏の熱中症よりはるかに大きい

そうした家庭内のヒートショックによる事故を防ぐのに何より大切になるのが、「高気密・高断熱によって、真冬でもすべての部屋が暖かい家を作ることです」と岩前教授は断言する。断熱性の高い家は、エアコンなどで暖めた空気の熱が外に逃げず、高い室温が維持される。ヨーロッパやアメリカでは伝統的に石造りで家を建てることから気密性が高く、また冬になると暖房をつけっぱなしにすることが習慣になっているため、日本より平均気温が低いにもかかわらずヒートショック関連死の数はずっと少ない。

「兼好法師の『徒然草』に、『家のつくりようは夏をもって旨とすべし』(家造りは夏に過ごしやすいよう、風通しをよくしなさいの意)という言葉があり、今でもよく日本の住宅の話のなかで引き合いに出されます。でもこれは、今の日本では通用しません。日本はヨーロッパより木が沢山生えていたので、それで木で家を作るようになり、その結果、気密性が低い家に住んでいるというだけの話です。ここ数年、夏の暑さによる熱中症の話題がよくマスコミに取り上げられますが、夏場に暑さで緊急搬送される人のうち死亡するのは、0.1%(16年は全国で59人)です。冬の気温低下による健康被害のリスクとは比較にならないのです」

住宅の気密性・断熱性を高めることは、ヒートショックの予防にとどまらず、さまざまなメリットを健康に与える。その一つがぜんそくやアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患の減少だ。

※2016年、消防庁「熱中症による救急搬送状況」
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