歴史修正主義はアジアの分裂をもたらす

「日本のリベラリズムの危機」を考える<2>

従軍慰安婦問題で誤報をしたことでバッシングを受けている植村隆・元朝日新聞記者。同氏は1月9日、日本外国特派員協会で会見を行った(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)
キングストン氏は日本在住のリベラルな視点を持つ政治学者。テンプル大学日本校で主にアジアの政治について教えている。安倍晋三首相に対して批判的な同氏は、明仁天皇の1月1日の新年所感に大いに注目している。明確に「満州事変」について言及したからだ。
天皇の発言を政治利用することはあってはならない。メディアがことさら、その意味を詮索することも、ある意味では政治利用の類ともいえるだろう。しかし、天皇の発言は一般国民の認識、東アジアにおけるコンセンサスとかい離しているわけではない。そのため、天皇の発言を起点に戦後史の問題を考えることは有意義であると判断した。今回、3日連続で同氏の論考を掲載する。今回はその第2回である。(編集部)

 

前回の記事 天皇は、なぜ「満州事変」に言及したのか

1月1日の天皇の所感は、戦争の恐しさを強調し、反軍国主義・平和主義的なメッセージを伝えるものだ。天皇は日本人に、過去の教訓に深く学ぶことを呼びかけているが、それはおそらく、安倍首相就任以降の価値の対立を目の当たりにしてきたからだろう。多くの日本人、そして長らく日本を注視してきた識者たちは、強硬かつ極端な右翼主義者である安倍首相の下で、独善的な国家主義が復活することについて強い懸念を表明している。

極端な右翼主義者は、朝日新聞などリベラリストを激しく攻撃し、慰安婦問題を含め、戦時中の日本の卑劣な略奪行為については軽視している。1993年の河野談話の内容を歪めようとしていた国会議員たちに対し、安倍首相が何ら批難しなかったことに当然ながら天皇は気づいているだろう。河野談話において日本は、1932~1945年のアジアで、多くの若い女性たちを巻き込んだ卑劣な性奴隷のシステムに対する責任を認め、賠償を約束している。慰安婦は、直接的または間接的にだまされたり、強制されたりして動員された。

「吉田証言問題」は政治的な問題

慰安婦に関する20年以上前のわずかなレポートが、吉田清治による信頼性に欠ける証言に基づくものであったことを朝日新聞が認めたという事実は、この慰安婦システムの性質と程度に対して疑いを投げかけ、それによって最小化と否認の歴史観を推進するための口実に用いられている。

当然ながら、安倍陣営は朝日新聞の問題を政治的なアドバンテージとして利用している。結局のところ、この問題はジャーナリズムというよりもむしろ政治的な問題であり、保守主義者が日本のアイデンティティを自らの観点で再定義するために行った文化的闘争の一部なのだといえる。かねてから右翼主義者は、この文化的闘争において朝日新聞を主な敵対対象メディア、攻撃の標的としている。

朝日新聞の元記者とその勤務先の大学関係者に嫌がらせを行い、これらの元記者との契約を解除しなければ、釘を入れた爆弾を爆発させて学生に危害を加えるなどと脅迫したネット右翼の事例もある。在特会によるヘイトスピーチ運動においても、日本の在日コミュニティに対する嫌がらせと、殺害予告が行われている。安倍首相は、こうした狭量な行為を黙認し、反朝日運動の応援部長のように振る舞っている。

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