天皇は、なぜ「満州事変」に言及したのか

「日本のリベラリズムの危機」を考える<1>

新年一般参賀で手を振る今上天皇(写真:アフロ)
ジェフリー・キングストン氏は日本在住の政治学者でリベラルな視点を持つ識者として知られている。テンプル大学日本校で主にアジアの政治について教えている同氏は、天皇の1月1日の新年所感に注目した。「満州事変に始まるこの戦争の歴史」と、あえて満州事変に言及したからだ。
これまでも誕生日祝賀会などにおいて満州事変に言及したことがあるが、新年の挨拶でこのことに触れたのは今回が初めて。「これは政治的なことに立ち入らないよう配慮しながらも、安倍政権に対して牽制しようとする意思が込められているのではないか」とキングストン氏は推量している。
むろん、天皇の発言を政治利用することはあってはならない。メディアがことさら、その意味を詮索することも、政治利用の類である。しかし、天皇の発言は一般国民の認識、東アジアにおけるコンセンサスとかい離しているわけではない。そのため、天皇の発言を起点に戦後問題を考えることは有意義であると判断した。今回、3日連続でキングストン氏の論考を掲載する。今回はその第1回である。(編集部)

 

第2回は 歴史修正主義はアジアの分裂をもたらす

2015年の新年の所感で天皇が満州事変に言及した意図は、正確にはわかるわけではない。政治的な問題への天皇の介入を防ぐ憲法上の制限に違反しているという印象を与えないために、天皇の言葉は非常に曖昧なものになっているためだ。

鍵となるのは次の一節だ。「本年は終戦から70年という節目の年に当たります。多くの人々が亡くなった戦争でした。各戦場で亡くなった人々、広島、長崎の原爆、東京を始めとする各都市の爆撃などにより亡くなった人々の数は誠に多いものでした。この機会に、満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び、今後の日本のあり方を考えていくことが、今、極めて大切なことだと思っています」。

宮内庁は天皇の言葉を事前に注意深くチェックしているため、天皇が伝えようとしているメッセージの意図については文面から推測することしかできない。天皇がこの話題を取り上げた背景には、戦争責任とアジア全域における残虐行為について、過去四半世紀の間、日本の侵略の犠牲となった国々に対し天皇が行ってきた反省の意の表明という実績があり、満州事変への言及はこの文脈で考えなければならない、というのが私の意見だ。

天皇が一貫して目指してきたこと

過去において、日本の政治家は、自国が与えた恐怖について、事実から目を逸らすことなく、深く悔いていることを示す努力をしてきた。だが、天皇はこうした多くの政治家よりも多くのことをしてきたといえる。現在、歴史修正主義の政治家や対外強硬主義のマスコミは、天皇の関係修復外交への努力を懸命に抑えこもうとしているようにみえる。しかし、明仁天皇はこれを昭和天皇が果たしえず自身が引き継いだ責務と考えている。そのため、天皇の限られた役割において、自分にできることを行うことにこだわっているのだ。

天皇のこれまでの記録を見れば、長らく行われてこなかった、誠意ある清算を天皇が奨励していることがわかる。1978年以後、昭和天皇が靖国神社の参拝を拒否していたのは、同年のA級戦犯合祀が原因だと明仁天皇は明言している。

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