北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記が10月24日に敢行した中国遼寧省丹東市への電撃日帰り訪問は、冷え切っていた中朝国境の観光と経済に大きなゲームチェンジをもたらす起爆剤となった。
最大の焦点は、2014年の完成から約12年間にわたり放置され「開かずの橋」と呼ばれた新鴨緑江大橋が10月15日に正式開通し、わずか9日後に金正恩氏自らが車列で橋を渡ったことだ。
参戦76周年に合わせた戦死者追悼という公式目的の裏で、最高指導者が新大橋を渡ってみせた行為は、凍結されていた人的往来や国境観光の再開に向けた号砲にほかならない。
北京での習近平国家主席との会談はなく、党序列4位の王滬寧・全国政治協商会議主席の出迎えにとどまった外交的距離感をよそに、足元の丹東では「金正恩氏が訪れた街」として全土的な注目を浴び、「抗美援朝記念館」には来館者が殺到、鴨緑江沿いの飲食店やホテルは予想外の特需に沸き立っている。
さらに現地の視線は国内観光バブルにとどまらず、中国人向け新義州観光の再開、さらには来年4月に期待される「平壌マラソン2027」を通じた外国人ランナーの新大橋渡橋へと向けられている。熱気と打算が交錯する丹東の現場を追った。
10月24日「北朝鮮から高官が来るらしい」
10月24日、日本時間正午過ぎ、筆者の丹東在住の中国人知人から連絡が入った。国境の玄関口である丹東駅前や鴨緑江沿いで突然交通規制が敷かれ、警察車両によって主要道が完全封鎖されたという。
規制直後から要人訪中のうわさはあったものの、まさか金正恩氏本人が現れるとは現地関係者ですら誰も予想していなかった。
徹底した情報統制の下、黒塗りの車列が市内を疾走した。金正恩氏が北京へ向かわず、習近平氏とも会わずに丹東だけで同日中に帰国したのは政権発足以来初めての異例事態である。
この歴史的訪問の舞台となったのが、10月15日に正式開通した新鴨緑江大橋だ。同橋は丹東市と北朝鮮・新義州市を結ぶ全長3030メートル、往復4車線の巨大斜張橋である。
中国側が全額負担して2014年に完成させたものの、北朝鮮側の接続道路や税関整備が進まず、約12年間にわたり放ったらかしで無期限開通延期となっていた。
従来の中朝友誼橋は老朽化が進み、単線鉄道と1車線道路の併用で輸送能力に限界があった。その新大橋が開通し、わずか9日後に最高指導者自らが渡橋した事実は、新たな国境インフラの本格運用を内外にアピールする強烈なデモンストレーションとなった。
この記事は会員限定です
残り 2675文字

