動物園や水族館の関係者の間では、ぼくが珍しい動物の病理解剖を積極的に引き受けていることが、ある程度知られているようです。最近は月1回くらいの頻度で、このようなセカンドオピニオンの相談を受けます。
水族館からは、最初の病理検査機関で作製された「パラフィンブロック」が送られてきました。心臓、肝臓、肺、脾臓、腎臓、脳などの臓器ごとに作製されたもので、大きさは消しゴムくらいです。
一般的に、病理検査では採取した臓器や組織の一部をパラフィンという、ろうのような物質に埋め込んで固め、それを薄くスライスして染色し、顕微鏡で観察します。このパラフィンブロックから、改めて自分で組織標本を作製します。
まず目についたのは、全身の血管が拡張していて、組織全体が強くうっ血していたことでした。また、肝臓や脳では出血も確認できました。正常なら血管の中にある赤血球が、血管の外に漏れ出ていたのです。
さらに注意深く見ていくと、脾臓や肝臓の一部に壊死(えし)が起きていることがわかりました。
「感染症ではないだろうか……」
正常な細胞では、核や細胞質の形が保たれています。しかし、壊死した組織や細胞は、構造が乱れ、核が壊れたり消失したりします。また、壊死した細胞や組織の周囲には炎症細胞が集まり、細胞の残骸を貪食していることもあります。
「何かの感染症ではないだろうか……」
うっ血や出血はさまざまな急死事例でよく見られる所見で、それだけでは死因はわかりません。
一方、壊死は、生前に何らかの原因で一部の細胞が死んでいたことを示す所見です。例えば、病原体の増殖やそれに伴う炎症などが起きると、組織が壊死することがあります。
今回の所見から、ぼくはまず感染症を疑いました。


※ログイン後、コメント入力が可能です。