ところが、単純ヘルペスウイルスがすでに潜伏している神経細胞に帯状疱疹の原因となるウイルスを感染させると、眠っていた単純ヘルペスウイルスが再び活動を始め、アミロイドベータやタウの異常が急速に引き起こされたのです。つまり、ウイルスは単独ではなく、互いに影響を及ぼしている可能性が高いのです。これは、認知症の発症メカニズムを考える上で、大切な発見でした。
ここまで読むと、「打つ手はあるのだろうか」と心配になられるかもしれません。しかし一方で、ウイルスの再活性化や脳への影響を抑える可能性のある対策についても、研究が進められています。その柱になるのが、ワクチン接種です。私たちは2025年、日本認知症学会で「新しい認知症危険因子としてのウイルス感染症」というシンポジウムを企画しました。
それまで同学会では、感染症が認知症の危険因子として本格的に議論される機会はほとんどありませんでした。当日は会場に入りきらないほど多くの参加者が集まり、このテーマに対する関心の高さを実感しました。認知症の専門医でも、それほど新しく、関心の高いテーマなのです。
ですから、読者の皆さんが「初めて聞いた」と感じても、決して不思議ではありません。この10年で、認知症をめぐる常識は大きく塗り替えられてきました。そして、その新しい展望の中で、認知症予防との関連が注目されているのがワクチンです。
帯状疱疹ワクチンは発症を減らせる可能性がある
感染症が、認知症との関連が示されているとすれば、感染を予防することにも意味があるかもしれません。
なかでも近年注目されているのが、帯状疱疹ワクチンです。帯状疱疹ワクチンを接種した人は、認知症の発症リスクが低いことが複数の研究から報告されています(ただし、ワクチンを接種すれば認知症を予防できると確立したわけではありません)。
まず、帯状疱疹ワクチンについて、簡単に整理します。 帯状疱疹ワクチンは、子どもの頃に水ぼうそうとして感染し、その後も体内に潜伏しているウイルスが、高齢になって再活性化するのを抑えるためのワクチンです。ワクチンを接種することで、ウイルスが再び活動することを抑え、帯状疱疹の発症を防ぎます。
帯状疱疹ワクチンと認知症の関係を調べた、代表的な5つの論文(中には2つの研究を含むものがあるので、合わせると6つの研究)があります。その6つの研究のデータをまとめると、ワクチンを打った人では、打たなかった人に比べて、認知症になるリスクが約24%下がっていました。
もちろん、それぞれの研究では効果の大きさには多少の違いがありましたが、ほとんどの研究が同じ方向、つまり「ワクチンを接種した人では、認知症の発症リスクが低い」という結果を示していました。複数の研究で同じ傾向が繰り返し確認されていることは、医学の世界ではとても重みのある事実です。


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