さらに、2025年にネイチャー誌に発表された英国のウェールズの研究は、いっそう説得力のある結果を示しました。ウェールズでは、帯状疱疹ワクチンの公費接種制度が導入された際、79歳以下は接種の対象となる一方、80歳以上は対象外とされました。
つまり、生年月日がわずか1日違うだけで、公費で接種できる人とできない人に分かれ、ワクチンの効果を公平に比べやすい状況が生まれたのです。この年齢による線引きを利用して、7年間、認知症と新たに診断される割合を追跡しました。その結果、公費接種の対象となった人では、対象外だった人に比べて、認知症と診断される割合が約20%低くなっていました。
単なる偶然や生活習慣の違いだけでは説明しにくく、ワクチン接種そのものが認知症のリスクを下げる可能性を強く示す結果です。加えて2026年の2月に報告されたアメリカからの研究では、65歳以上の約33万人を対象として、組み換えワクチンを2回接種した群では、平均追跡期間3.4年(最大5.2年)で認知症を発症するリスクが約50%低下していました。
ワクチン接種は「将来の脳を守るための大切な備え」
最近、外来でも「私も帯状疱疹ワクチンを接種したほうがよいでしょうか」とよく聞かれますが、日本では2025年度から、原則としてその年度に65歳になる方を対象に、帯状疱疹ワクチンの定期接種が始まりました。
対象となる年齢には経過措置も設けられていますので、詳しくはお住まいの市町村にご確認ください。定期接種の対象となる方は、公費による助成を受けられますが、自己負担額は自治体によって異なります。私自身も、公費助成の対象でなくても接種したいと考えています。
50歳を過ぎたら、かかりつけ医と相談しながら接種を検討してもよいでしょう。ワクチンは、もちろん帯状疱疹だけではありません。インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチン、新型コロナワクチンも、それぞれの感染症の発症や重症化を防ぐことで脳への悪影響を減らす可能性があります。
特に肺炎球菌ワクチンについては、日本の高齢者を対象とした大規模な追跡研究で、接種した人ほど認知症を発症しにくい傾向が報告されています。
これらの研究成果は大事な視点を与えてくれます。
ワクチンの恩恵は、その感染症を防ぐことだけにとどまりません。私たちが考えている以上に、ワクチン接種は、将来の脳を守るための大切な備えにもなり得ます。必要なワクチンを適切な時期に接種し、その習慣を長く続けること。その積み重ねがもたらす効果は、決して小さくありません。
もちろんワクチンに不安をお持ちの方もいらっしゃると思います。副反応や効果について、いろいろな情報が飛び交い、迷ってしまうのも無理はありません。私は患者さんに「気になることは、どんなことでも聞いてください。一緒に考えて決めましょう」とお伝えしています。ひとりで悩まず、まずはかかりつけ医に相談してみてください。



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