どの人も毎日が充実していて、子どもと遊ぶ時間もある。しかし、例えば所得400万円で右肩上がりが期待できなくても、やっていけるのだろうか。
「必ずそういう質問が来るんだよね。でも、みんな普通に生活できている。野菜もコメも自分で作るし、教育費も公立の学校ならお金はあまりかからない。必要になったら、よりお金になる作物を作ると言っている人もいます」
農家は減り続けているが、都市に住む消費者はそれほど危機感を持っていない。
「今回出演した人たちは全員、このままいくと日本は飢えると見ていると思う。僕もそう思っています。今の70代から80代の人がいなくなった分を埋めるほど農家の数は増えないし、農水省が進めている大規模化では補えない」
大規模化して生産性を上げれば食料不足は回避できるのではないのか。柴田さんは、大規模化に向いている農家と向いていない農家があると言う。例えば、柴田さんは家族規模のプロダクションなら経営できる。従業員20人の会社も、なんとか経営できるかもしれない。しかし、従業員50人の会社を経営しろと言われたら、できない。
「今、農水省が進めているのは、作る人がいなくて田んぼが余っているから、農家に30ヘクタールやってくれ、50ヘクタールやってくれ、という大規模化です。面積が大きくなると企業経営にしなくてはならない。仕事が稲作ではなく経営に変わってしまうから、向き、不向きがある。大規模化でうまくいっている数字は、一部のすごくいいところの数字なんです。不向きな人は笑顔ではなくなり、家族も幸せではなくなって、子どもたちは後を継がなくなります。持続可能ではありません」
DJから農家に転身した人も
映画を締めくくるのは、DJから転身し、熊本県菊池市で発酵農園Jah村(ジャーむら)を営む、村上厚介さんだ。楽で楽しい農作業をSNSで発信し、支持する若者も多い。お年寄りが引退したら、「若者が都会から移住してきて農業をやりだす」と彼は予測している。その先頭を走り、知恵と技術を惜しみなく提供しようとしていた。
映画「百姓、わらう。」は、食卓の向こうに広がる風景と農家の事情、農政の問題点を見せてくれる。柴田さんは万人受けする映画だとは思っていない。
「食に関心のある人、食材がどこから来るのかを考える人に観てほしい。経済界の人、右肩上がりの成長を求めて疲れた人にも届くといいなと思っています」
1963年、東京生まれ。東京大学(文化人類学専攻)卒業後、NHK(沖縄放送局、報道局特報部)にディレクターとして勤務。その後、農山漁村の生活文化を記録する、民族文化映像研究所を経て、映像制作会社プロダクション・エイシアを設立。文化庁映画賞大賞、キネマ旬報ベストテン(文化映画部門)第1位、放送文化基金賞、ATP賞最優秀賞、アメリカ国際フィルム・ビデオ祭部門1位などを受賞。映画に「ひめゆり」(2006年)、「森聞き」(2010年)、「千年の一滴 だし しょうゆ」(2014年)、「陶王子 2万年の旅」(2021年)、「百姓の百の声」(2022年)。テレビ番組にNHKスペシャル「クニ子おばばと不思議の森」「黒潮」「世界里山紀行」「新シルクロード」NHK「北海道 豆と開拓者たちの物語」など。


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