オープンAI、アンソロピック、グーグル、エヌビディア――。米西海岸の大都市サンフランシスコから南方に延びる一帯にかけて、世界のAIブームの中心にいるビッグ・テックの本社やAIスタートアップが集積する。世界的なハイテク産業の聖地、シリコンバレーだ。
9月下旬の朝、サンフランシスコ中心部をバスで出発し、ビッグ・テックの通勤バスが行き交うハイウェイ101号線を南へ進むこと約1時間。名門スタンフォード大学からほど近いパロアルト地区のビジネスパークの一角に、日本では馴染みのあるNTTグループのロゴを掲げた建物が出現した。
内部に足を踏み入れると、インテリアショップのような開放的な空間に、パソコンがずらりと並ぶ真新しいオフィスが広がる。ホワイトボードには、複雑なコードや数式のようなものが無造作に書きこまれていた。ラフな格好のエンジニアが一人、また一人と出社し、熱心に議論を交わす。シリコンバレーのど真ん中にあるこの会社は、NTT完全子会社のNTTデータグループが昨年末に設立した「NTT DATA AIVista」だ。
シリコンバレーには、現地の情報収集などを目的とする「アンテナ拠点」を構える日本企業も少なくないとされる。NTTデータG自身も以前から、現地スタートアップとの連携を模索する拠点を設けている。
しかし、AIVistaはそうした存在とは一線を画す。単に最新技術やスタートアップの動向を追うのではなく、自らAIソリューション基盤を開発し、事業として世界に展開することを目的とする、れっきとしたNTTグループの実働部隊だからだ。
トップ人脈を駆使してAI人材を採用
現在、同社で働くのは約35人。現在進行形で採用を進めており、将来的に50~60人規模まで拡大する想定だ。日本からの出向者は、CSO(最高戦略責任者)を務める本橋賢二氏のみ。スタッフの大半を、現地で採用したビッグ・テック出身のAIエンジニアが占める。
日本国内では、優秀な人材が次々と外資系企業へ流出し、「GAFA予備校」と揶揄されたこともあるNTTグループだが、ここシリコンバレーでは様相が異なる。アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)、マイクロソフト、グーグル、メタ、アップルなどで勤務経験があるエンジニアらを採用しており、メンバー全体で100件以上の特許実績を誇る精鋭集団を形成しているのだ。
そのCEO(最高経営責任者)を任されたのが、エヌビディアやAWSでバイスプレジデントを歴任したブラティン・サハ氏である。イェール大でコンピュータサイエンスの博士号を持ち、AWSで数十億ドル(数千億円)規模の生成AI事業を築き上げた、シリコンバレーでは“大物”として知られる存在だ。
優秀な人材の争奪戦が激しく、「普通のエンジニアの年収が30万~40万ドル(5000万~6000万円規模)」(本橋氏)ともいわれるシリコンバレーにおいては、人脈と実績が大きな武器となる。AIVistaのメンバーの多くも、サハ氏のネットワークを通じて参画を決めたという。
AIVistaが大きな強みとして打ち出すのが、その開発スピードだ。通常、日本では100人規模のチームが2~3年かけて行うとされる100万行規模のコードを書く作業を、約10人のエンジニアがAIをフル活用することで、わずか5カ月ほどで行ったという。
世界最先端のAI人材を集めたこの場所で、NTTは何を生み出そうとしているのか。巨額マネーが流れ込むシリコンバレーに乗り込んだNTTの挑戦の行方は、同社グループがAI時代にグローバルIT企業として存在感を高められるか否かを占う試金石になる。


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