もっとも、台湾に中国各地の料理文化が流入したのは1949年が最初ではない。日本統治期から、福州や福建など中国大陸出身の料理人が台湾の飲食業で重要な役割を担っており、上海や広東などの料理も台湾に導入されていた。
また、当時から現地の食材や台湾人の嗜好に合わせて調理法や味付けを変える動きがあり、「台湾化」した中華料理も形成されていた。
そのうえで、1949年以降に中国各地から流入した料理人と料理文化が、台湾の中華料理をさらに多様化させた。台湾政府系の資料でも、国民政府の移転に伴って中国各地の料理が台湾に入り、台湾の食文化が大きく変化したことが紹介されている。
食文化をとりまく環境の変化
しかし、時代が20世紀末から21世紀へと移るにつれて、こうした料理を支えた第一世代の料理人が高齢化し、引退する時期を迎えた。その一方で、長時間労働や厳しい厨房環境、長期にわたる修業などを背景に、伝統的な調理技術を継承する後継者の確保が難しくなったとの指摘もある。
さらに、次世代への技術継承の過程でレシピや調理工程が簡略化されたり、親世代が営んできた老舗料理店を継がず、別の業種に就職したりするケースも考えられる。こうした事情が重なれば、熟練した料理人が長年かけて身につけた技術や味の継承が難しくなるのは当然だろう。
また、老舗の味を引き継ぐ際、現代の台湾人の嗜好に合わせて、油分や塩分を抑えるなど、味付けや調理法を現代風にアレンジする店もある。こうした変化は必ずしも「劣化」を意味するものではなく、食文化が時代に合わせて変化する一つの側面でもある。
一方で、かつての第一世代の料理人が作った、油を多く使った重厚で濃厚な味わいを知る世代や食通の中には、「伝統的な四川料理や湖南料理が本来持っていた力強さや深みが失われた」と感じる人もいる。
現在の台湾で「昔の中華料理と味が変わった」と語られる背景には、こうした世代間の味覚や調理法の変化もあるのかもしれない。
さらに、台北市をはじめとする都市部での地価や賃料の上昇も、老舗飲食店の経営環境を厳しくしている。
台湾の飲食業では、食材費の変動、人手不足、人件費の上昇などが主要な経営上の課題となっている。台湾経済部の調査でも、2024年の飲食業が直面する主な問題として「食材コストの変動」「人手不足」「従業員の離職率の高さ」「人件費の高さ」などが挙げられている。
実際、台北では長年営業してきた老舗飲食店が、高額な賃料を負担しきれず閉店する事例もある。例えば、東区の老舗江浙料理店「永福樓」は月額約300万台湾ドルの賃料負担などを背景に閉店したとされる。


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