松本さんにとって「地域に開く」とは、その土地にある人や文化と関わりながら、園そのものが街の一部になっていくことなのだ。
「子ども扱いしない」園で生まれていること
地域ごとの個性を大切にする一方で、どの園にも共通している点がある。いわゆる子どもらしい装飾が、ほとんど見当たらないことだ。
「基本的に全園とも、くまちゃんとかうさぎさんとか、なるべく子どもを子ども扱いするようなものは置かないようにしています。パステル調の色使いもとくにないですね」
小竹向原園の開園時にも、「既成の家具や大人が想定する空間ではなく、子どもたちの姿を見ながら空間を構築していく」と保育者たちに説明したという。
その背景にあるのが、北イタリアのレッジョ・エミリア市で生まれた「レッジョ・エミリア・アプローチ」だ。このアプローチの根幹にあるのは「100の言葉」という考え方。子どもには言葉だけでなく、描く、動く、音を奏でるなど、世界を感じ、考え、表現する多様な手段があるというものだ。
園庭にも、ブランコやジャングルジム、滑り台といった既成の遊具はない。木や砂場、ロープ、築山などに加え、生き物が集まるビオトープや畑がある。子どもたちは、からだと心を存分に動かし、自然や生き物に触れながら、自分たちで遊びを生み出し、広げていく。
保育者も、そういった保育のために時間の使い方を工夫している。
「うちは壁面装飾のようなものは基本的にはしていません。園内に掲示しているのは、子どもたちの姿や作品です。保育者は、子どもの姿を捉え、遊びや探究が深まるような環境をつくること、そして、自分たちの研究に時間をかけています。
子どもたちの遊びや学びのプロセスを写真やメモなどで記録する『ドキュメンテーション』をもとにその姿を振り返り、同僚と対話しながら翌日以降の環境を考えていく。そこに保護者や地域の方が加わり、一緒に対話することもあります」
園内には、保護者や卒園児も書き込める「対話ボード」もある。ドキュメンテーションをきっかけに、保育者だけでなく、保護者や地域の人たちにも対話が広がっていく。こうした園との関わりは、卒園後も続くそうだ。
「毎年何十人と卒園児が戻ってきてくれて、保育園で過ごす時間をとってます。小学生だけじゃなくて、高校生になって帰ってくる子もいるんですよ」と松本さんはやわらかな笑顔で語る。


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