そして、2019年にはW65(マスターズ陸上、65歳以上が出場できる競技)の60m走、2022年には、W70の60m走、2024年にはW70の100m走で、それぞれ日本新を更新。年齢を重ねながら、着実に記録を積み重ねていった。けれど、松尾さんが目指していたのは、記録をどこまでも伸ばすことではなかった。
怪我をしないことと、記録を落とさないこと。
若い頃のように、練習量を増やせばタイムが伸びるわけではない。だからこそ、限界を超えるような努力をするのではなく、年齢に見合った運動量を守り、無理をせず、できるだけ長く走り続ける。
「怪我をせず、とにかく長くやれば、生き残れるよ」
国家資格を持つ、治療の専門家である夫から、そう言われてきた。夫の心身共のメンテナンスなくしては、今の自分はないと松尾さんは感謝を込めて語る。長く走り続けてきた人ほど、無理をして怪我をしてしまい、記録が落ちて引退してしまうこともあるという。
そうして迎えた2025年11月、東日本マスターズ陸上選手権大会。神奈川県チームから4×100mリレーへの出場を誘われた。でも、リレーでの大会出場は初めて。悩んだ末に、出場を決めた。
松尾さんは1走を務め、仲間へバトンをつないだ。チームのタイムは1分00秒09。2015年にドイツのチームが記録した1分00秒31を0秒22上回る、世界記録だった。
走り終えた松尾さんは、世界記録と知らされても、すぐには信じられなかったという。
「まったく想像もしていなかったので、信じられなくて! うれしくて、宙を飛んでいるような気分でした」
子どもの頃から大好きだったかけっこ。62歳で再び走り始め、怪我をせず、長く続けることを大切にしてきた。その先に、73歳で待っていたのが、思いがけない世界記録だった。
園で始めた「かけっこ教室」、枠がある中の自由を伝える
保育園でも5年ほど前から、年長児と学童向けの「かけっこ教室」を始めた。参加者には、園長の手づくりの小さなパンフレットが配られ、走り方、教室の目的、タイムを記録できる欄がある。


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