そして、あっという間に富士子さんの任期の半年が過ぎて、日本に帰国することになった。ジャックさんの実家の人たちとも親しくなり、二人はこれからも一緒にいようと将来を誓い合った。いよいよ富士子さんの家族にもジャックさんのことを話さなくてはならない。
「どうして、お前がタイ人と結婚しなくちゃいけないんだ! 理由を説明してみろ」
娘の結婚相手がタイ人だと知り、富士子さんの父は激高した。負けじと富士子さんも言い返す。
「好きになった人がタイ人だっただけ! 理由なんてない」
母や姉からも大反対を受けた。でも、どんなに反対されても、富士子さんはジャックさんと結婚するという意志を曲げるつもりはなかった。
その富士子さんの気迫と心情を察して、最初に折れたのは父だった。「そこまで言うならしょうがない」としぶしぶ二人の結婚を認め、母や姉をとりなしてくれたのだ。
なんとか結婚の承諾を得た二人は、入籍手続きをすることになった。国際結婚の場合、日本とタイそれぞれで手続きをする必要がある。まずは日本の役所で手続きを済ませた後、配偶者ビザが下りるまでの4カ月ほど、ジャックさんは一度タイに戻った。
「前例がない」を超えた、校長の母の口利き
一方、タイの役所で婚姻届を出すときは大変だった。
冒頭のとおり、日本人女性とタイ人男性の組み合わせが珍しく、『前例がないから無理だ』と突き返されたのだ。最終的には、小学校の校長をしているジャックさんの母が口利きをして、なんとか受理された。
また、富士子さんは旧姓も併記した名前を使いたかったが、「その場合は手続きとして、二人でやり取りした手紙など、交際している証拠がわかるものを見せてほしい」と言われた。しかし、「そこまでプライバシーをつまびらかにされるのはいやだ」と感じた富士子さんは、旧姓の併記を諦めて「スライ富士子」と名乗ることにした。


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