不便なこともあったが、富士子さんにとっては文化の一つひとつが面白く、タイでの生活は新鮮なことだらけだった。
そのひとつがお風呂の入り方だ。かつてのタイでは、女性は「パトゥン」と呼ばれる筒状の布の中に身体を入れて巻きつけ、その上からかけ湯をする。男性用の布もあり、こちらは「パカマ」という。男性の場合は下半身にパカマを巻きつける。
ジャックさんの実家のトイレも、富士子さんが訪れる前、使いやすいようにと、ジャックさんが洋式に変えるべく取り計らってくれた。
「ジャックさんは私が不自由を感じないように、前もって色々な準備をしてくれていました。頼もしさも感じましたね」
こうしたジャックさんの行動は、実家の父の教えによるものだ。
「相手がいるから自分もいる。だから相手を尊重することを大事にしなさい」
ことあるごとに、そう言われて育った。前編で触れた「俺よりお母さんを大事にしろ」も、同じ父の言葉である。義母に会社を追われても近くに留まった夫の温かさは、すでにこの頃からあった。
母は少し嫉妬したが…
タイに滞在して数カ月が過ぎた頃に、ジャックさんは富士子さんが恋人であることを家族に明かした。富士子さんは、ジャックさんの家族から親しみをもたれていたので、その事実をみんなが喜んでくれたそうだ。
唯一、末っ子のジャックさんをかわいがっているお母さんだけは、富士子さんに少し嫉妬したそうだが、実家に遊びに行くと率先してお母さんの手伝いをしてくれる富士子さんを気に入っていたため、最終的に祝福してくれた。


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