二人の交際を家族に内緒にしていた富士子さんは、ジャックさんとのやり取りに気を使うようになった。電話で話す機会をなるべく少なくするために、会ったときに、次に会う約束も決めておいた。手紙を送りたかったけれど、郵送だと親に見られてしまうかもしれない。富士子さんは書いておいた手紙を、会うたびにジャックさんに渡していた。
「会うたびに何枚も手紙をくれるので、なかなか読みきれないんです。僕が読めない漢字にはふりがなを振ってくれていました」
そんなところに、富士子さんの、語学学校の先生らしい気遣いがのぞく。
恋人の存在は隠したまま、単身タイへ
二人の交際は順調に続き、3年ほどが過ぎた。26歳になった富士子さんは、ジャックさんの祖国であるタイのことを、もっと知りたいと思うようになっていた。そんなときに、タイでの日本語教師の募集について知る。期間は半年間だ。
親には本当のことは言わず、「タイで日本語教師をしてみたい」という話だけをした。ジャックさんは専門学校に通いながら、タイ料理屋でアルバイトをする生活を続けていたため、富士子さんは単身タイに旅立つことを決めた。
ジャックさんは最初の1週間だけ、富士子さんと共にタイに行き、自分のいとこを紹介した。ジャックさんのおじの家がバンコクにあったため、富士子さんがなるべく不自由なく暮らせるようにフォローを頼んだのだ。
当初、富士子さんのことは「大事な友達だから、よろしくね」と伝えただけだったが、本当に大切にしてくれたそうだ。
「彼女は着飾ったりせず、いつも自然体でいる人なんです。だから、実家の家族たちも『日本人の女性が来た』と構えることなく、ジャックの知り合いが来たという感じで、自然になじんでいました」
しかし、30年以上前のタイと日本では、生活面での違いは大きかった。その頃のタイの家は、シャワーを浴びるときには水道をひねるのではなく、汲んである水を使う必要があった。また、携帯電話がなく、ジャックさんと国際電話で話すためには、郵便局で1時間並ぶ必要があったそうだ。


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